英国のいま
Brexit という思わぬ運命にさらされ、国益を最大限に意識しながら、Brexitを最も有利な形で完結させる。いまや、この目標実現を国是として、英国のエリート指導層が課題に取り組む姿は、さすが、民主主義の根付いた国である。中国とのヒンクレイ原発建設商談に国家安全保障上の理由から、即刻「待った」をかけたメイ首相、ファッションモデルばりのプロポーションに深紅のスーツをまとって杭州のG20に乗り込み、ジンジャンピン親方をひとつねりしてくれるのではと、胸躍らせたが、結果は、「レビユーを続け、信頼関係を構築しよう」と笑顔で別れたという。天井桟敷で待ち構えていたマニアックは少々失望した。
第二次大戦後のアトリー、ウイルソン等労働党政権主導による「ゆりかごから墓場まで」の福祉政策、同時に基幹産業は国有化の方向に進んだ。社会保障費の極大化、民間産業の投資意欲の減退から、オイルショックを迎える頃にはスタグフレーションに苦しみ「ヨーロッパの病人」と呼ばれるまでに経済が疲弊した。七十年代後半のロンドン、娘が骨折で一晩病院に泊まったが、医療費は全額無料であった。英国人の友人が言う「国が失業者の面倒見る、どの程度か想像できるかい」。週に28ポンド、それは真冬に暖房を諦め毛布を被って座っていれば餓死しない程度だという。当時、英国から豪州への移民は年三十万人を超えた。
折しも、天の恵み、北海油田開発プロジェクトが活況を呈し始めた。そして、街にエヴィータのミュージカルが流れる頃、「鉄の女」登場。社員二十万人の鉄鋼公社は民営化、四万人の会社となり、炭鉱労組には一歩も譲らず、決然とフォークランド紛争を軍事制圧した。EUでの英国はドイツに対抗する経済大国となる。ブレア政権のゴードン蔵相は頑なに通貨統合不参加を貫いた。政権維持を狙ったキャメロン氏の仕掛の失敗も、天の配剤か。これから、ダウニング街10番地の「ネズミ捕獲長」ラリー猫君の物語が始まる。