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「800字文学館」

大雪山裾合平近辺のお花畑

藤原 道夫

 高山のお花畑に惹かれて、時折山に登ってきた。これまでに見てきた中で大雪山のお花畑は、スケールの大きさ、多くの固有種を育む風土、雪渓の多い風景などから、類を見ない雲上の楽園だと思う。ここでは裾合平近辺で出会ったお花畑の思い出を記す。
 裾合平(1690m)は大雪山最高峰の旭岳(2290m)北斜面と当間岳(2076m)南斜面とが出合う谷の西側にある。ここを三度通った。
 学生時代、友人と二人で七月中頃に大雪山を一週間かけて巡った。最終日に愛山渓から沼の平に登り、旭平へと抜けて出発点の勇駒別(現旭岳温泉)に下った。沼の平から裾合平にかけて、花々に彩られた高層湿原の風景を満喫した。コエゾツガザクラ、チシマツガザクラなどの珍種も見ることができた。
 約三十年後未だ現役時代、七月下旬に札幌で用事のある日の前日、会議用の服装を携えて大雪山の縦走を試みた。旭岳温泉を早朝に発ってロープウェイで旭平に、そこから裾合平まで一気に一時間半で歩いた。ここで沼の平へ通じる道と直角に分かれ、御鉢平の稜線・中岳分岐へ向かう。しばらく行くとエゾコザクラの大群落に出会った。しばし立ち留まって可憐な花々を眺める。天候に恵まれ、高山の花々を楽しみながら層雲峡まで完走。翌日午後の会議に十分間に合った。
 それから数年後の七月上旬、娘を連れて再度旭平から裾合平に向かった。中岳分岐に登る道をしばらく行くと、大きな雪渓にぶつかった。あの素晴らしいお花畑だった所は雪の下に埋もれている! エゾコザクラの大群落を娘に見せてやりたいという想いは儚く消えてしまった。雪渓を越えて稜線まで登ったところ、ガスが濃い上に強風が吹き荒れており、すぐに退却。裾合平まで下ると風も穏やか、旭平への道をのんびり戻った。その辺りにキバナシャクナゲの群落が続いていることに初めて気付いた。淡黄色の花びらにしみ一つなく、美しくも高貴な姿に魅せられる。私にとって大雪山での新たな発見だった。

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