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「800字文学館」

パワースポット

中村 晃也

 白亜紀のころ、プレートの活動によりアジア大陸の東端に形成された旧日本列島の大陸側半分に南からきた太平洋側半分が合体し、その後日本海が生まれて大陸から分かれた日本列島が完成した。列島形成時の接合面を中央構造線と呼び、この断層を境に地質や岩石の種類が全く異なる。この中央構造線は、九州は熊本、大分を通り四国の北四半分、和歌山、伊勢湾口を通過後北上して諏訪湖周辺でフォッサマグナとクロスし今度は南下して関東茨城県に達している。

 神社や山岳、滝など所謂、聖地や霊場と言われる場所は、断層上の地磁気の高い場所にあるといわれ、鹿島神宮、香取神宮、諏訪大社、(分杭峠)、豊川稲荷、伊勢神宮、那智の滝、吉野、阿蘇、高千穂などが中央構造線上、またはその近くにある。
 駒ヶ根市の知人から、近所に分杭峠という他の霊場と異なり地磁気がゼロの地点があって、そこでは磁石の針がふら付くとか、そこに居るだけで身体の不調が治ったとか、岡谷の喫茶店がそこの水で美味しいコーヒーを出すとか、パワースポットとして近年大賑わいだと聞いて、興味が湧いた。

 見通しのきかない一車線のこの峠には、旧高遠藩の南端を示す碑が立つのみで、駐車場所がない。路傍の空き地は高遠からのシャトルバス発着所で一般車は駐車不可という。また林道周辺の崩落が激しく入山禁止の鉄柵があり、霊水の欲しい人や霊気に当たりたい身障者のためには峠の下のテントで便宜を図るという。
 不法を承知で近くの藪に乗り入れ駐車し、鉄柵を潜り抜け、峠から南へ分岐する林道を十五分ほどゆくと林の中に断層の露頭した沢があり、断層面に打ち込んだパイプからいわゆる霊水が出ている。周辺は特に霊気なるものは感じない。
 時間をかけて五リットルのペットボトルを満タンにして持ちかえったが、ご利益もなく、「冷蔵庫が一杯でどうしてくれるの」と女房に怒鳴られた。

 その一言に霊気ならぬ殺気を感じ、我が家のパワースポットは女房の存在にあると知った。

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