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「800字文学館」

ファストフード対スローフード

藤原 道夫

 1980年代半ば、ローマはスペイン広場の一角にマクドナルドが開店した。イタリア人はこれに反応する。この店が売るハンバーガーなどのファストフードが、従来のイタリアの食生活を乱すのではないかと危惧した。1986年ピエモンテ州ブラにスローフード協会の本部が置かれ、次のような趣旨で活動が開始された。①伝統的に栽培された食材と調理法を大切にする、②質の良い食材を提供する小生産者を保護する、③子供を含め、消費者に食に関する教育を行う。スローフード協会は世界中に拡がり、日本にも支部が置かれている。
 2002年にイタリアでスローフードを実際に食す機会があった。トスカーナの小都市モンテプルチャーノにスローフードを供するレストランがある、という情報を得ていた。一行四人でトスカーナ地方を旅行中に、シエナからバスを乗り継いでその小都市を訪ねた。街中心部に立派な建物のワイン販売店があり、有料で試飲できる店が何軒もあるこが印象に残った。
 夕食時に件のレストランに出掛けた。メニューの品数は少ない。ミックス・サラダ、ピチという細目のうどんの様なパスタ、それに当地風仔牛ステーキを注文。玉葱とにんにくが主体のソースをからめたピチは珍しかったが旨くはない。その他も至って平凡。当夜の収穫はヴィーノ・ノーヴィレ・ディ・モンテプルチャーノという美味しい赤ワインを知ったこと。呑み助たちはたっぷり楽しんだ様子。
 スローフード運動がその後大きな成果を挙げたとは評価し難いが、食生活の見直しに一石投じたことは確かだ。マクドナルドは現在もイタリアの小都市で見かける。ファストフードはスローフードとある点で折り合い、共存している様子。
 所が近年栄養学者の関心は、国民の肥満防止に移っていることを知った。オリーブ油やチーズを多用する従来の食事が見直されているのだ。食の問題は、ファストフード対スローフードという対立構図を超え、広範に及び根が深い。

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