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「800字文学館」

草津音楽祭(草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル)

川口 ひろ子

 草津音楽祭は毎年8月下旬の2週間、天下の名湯草津温泉で開催される。
 午前中は、クラシック音楽を学ぶ学生のための授業で、ウィーンやイタリアから来日した世界トップクラスの演奏家が指導する。午後はこれらの先生方による模範演奏が行われる。

 音楽祭の始まりは37年前、縁あってその頃から聴衆として参加している。当時の会場は天狗山スキー場のロッジで、音響に関しては涙ぐましい努力をした、と関係者が語っていたのも今では懐かしい思い出だ。
 その後に起こったリゾートバブルと崩壊、世の混乱に関係なく音楽祭はじみちに成長を続け、専用の音楽堂も建てられた。ここから多くの優秀なアーティストが巣立って行ったといい、国内で最も充実した内容を持つ音楽祭と言える。

 8月28日、サティの「メドゥーサの罠」を鑑賞した。
 サティはモーツァルトより110年後に生まれたフランスの作曲家。当時の音楽への批判精神旺盛な作品が多く、ピカソやコクトーなど他の分野の芸術家との交流を好んだ謎の多い音楽家として知られている。
 40分程のナンセンス喜劇「メドゥーサの罠」は、音楽は控えめでオペラというより科白劇だ。主役のメドゥーサ男爵は能役者が着物姿で演じた。台詞は日本語で語られたが、能独特の内に籠る発声でほとんど聴き取れない。フランス語ならともかく日本語の意味が解らないとは情けない。
 私の予習不足は反省するとしても、生誕150年記念の本邦初演という超マイナーな作品だ。字幕をつける等、我々聴衆への配慮もしてほしかった。

 古典派音楽好みの私、今回は、望まない前衛作品を鑑賞することになり、その上大型台風上陸か?という生憎の滞在となった。
 しかし、意欲満々最高の演奏を志す学生たち、彼等を温かくサポートする町の人々、清らかな山の空気、勢いよく噴き出す温泉、硫黄の匂い……。
 夏の終わりに、音楽を核にして賑わう草津温泉は、毎年訪れたい魅力に満ちたリゾート地だ。

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