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「800字文学館」

船の大きさ

野瀬 隆平

 日本人はどこから来たのか。南から舟で海を渡って来ることが可能だったのか。検証する実験の様子をテレビで見た。今からおよそ3万年前という前提で、その頃の技術と入手できる材料から判断して、長さおよそ6mの草舟を作り、与那国島から漕ぎ出した。しかし潮に流され途中でギブアップする結果となった。
 そんなことから、船の歴史に興味を抱いた。大昔の舟はどんなものだったのか。思い出したのが、カイロで見た古代エジプトの舟である。BC2500年頃、クフ王のために作られた木造の舟で、王が亡くなった時に解体され石に囲われて地中に埋められた。そのバラバラの木片を繋ぎ合わせ復元したのが、長さ42.33mの現存する最古の舟といわれるものだ。
 時代は大きく下り、遣唐使が乗った船の長さは約30mだった。それからおよそ千年後、イギリスから100人ほどの人を乗せて新大陸に渡ったメイフラワーの大きさも、同じくほぼ30mと推定されている。構造は進化しても大きさは変わっていない。帆船時代の末期、19世紀に活躍したカティーサークは、長さ86mとかなり大きくなっている。

 鉄で造るようになってから、船は急速に進化し大きくなった。
 現在最も大きな船は、軍艦としてはニミッツ級の原子力空母であろう。長さが330mもあり、満載排水量はおよそ10万トンである。ちなみに戦艦大和と武蔵は、長さ263m、満載排水量は7万3千トンだった。
 これまでに建造された最大の商船は、タンカーのノック・ネヴィスで長さ458.45m、載貨重量はおよそ56万トンである。しかし、大きさも限界に達した。技術面からの制約ではなく、運行する上で経済的なメリットよりもデメリットの方が大きくなってきたのだ。この巨大なタンカーは2004年に、沖合に浮かぶ原油の貯蔵・積み出し設備となり、2010年に解体された。
 ジャンボジェットと呼ばれたB747が、今や旅客機の主流でなくなってきたのと同じである。

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