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「800字文学館」

ハロウィンは嫌いだ

志村 良知

 ハロウィンは嫌いである。祭として備えるべき格式、様式美というものが全くない。あるのは無節操な薄気味悪い呪詛に満ちた扮装と喚き声の乱痴気騒ぎばかりである。暗鬱な冬を迎える古代ケルト人の魔除け儀式に起源を持つというこの祭、新大陸のアイルランド移民によって今日の原形が作られたらしい。

 数年前、そのアイルランド系アメリカ人に英会話を習っていた時ハロウィンと重なった。普段はきわめて常識人の彼が、全身緑一色、タイツ姿で顔に絵の具を塗ったトランプの絵札みたいな姿で現れた。その格好で電車に乗って来たのだという。妻子ある身で正気の沙汰とも思えない。
 フランス駐在時代、アメリカ支社に呼ばれたことがある。そんな暇は無いと嫌がったが、結局説得され二泊三日の予定で10月31日にアメリカ入り、空港から会社の会議室に直行。会議資料によると問題山積みで、こりゃ二日とも半徹夜かと思ったその時、駐在員含むアメリカ側幹部たちが「ハロウィンで子供の相手があるので、お先に失礼、後はよろしく」と消えてしまった。その夜は若い駐在員を案内に日本飯屋に繰りこみ、「何がハロウィンだ。お前だってドワナ、アワナって何だその英語」と荒れた。
 フランスでも前世紀末頃にはスーパーにハロウィングッズ売り場が設けられるようになっていた。お祭好きな国民性、今頃どうなっているか心配である。

 聞けばハロウィンには宗教が絡んでないらしい。この無宗教性も世界中で猖獗を極める一因だという。ならば無宗教で華やかさでは圧勝の花見はどうだろうか。お江戸の花見、人々は派手な仮装や芝居がかりの趣向を凝らして桜の下に繰り出し、年に一度の散財とどんちゃん騒ぎを楽しんだ。
 ブルーシートの上でのたくるだけの今様花見さえ外国人に人気らしい。その外国人観光客を巻き込んで、お江戸の花見を復活させよう。その華やかさに魅せられた彼らがクール・ジャパンのHANAMIを世界中に広めるに違いない。

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