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「800字文学館」

広島 カープテレホン

大越 浩平

 セ界1.広島カープが優勝した。市民は歓喜している。共に喜びを分かち合いたい。

 平成3年、広島と西武が優勝した時を思い出す。
 当時、広島に販売会社の支社があった。夏祭りの始まり、6月のとうかさん(別名ゆかた祭り)に合わせて商いに出かける。夜は祭りに商い接待、カープ選手御用達の店を覗いたりして楽しむ。町中がカープ好きなのを肌で感じた。

 規制緩和で、指定メーカー以外でも電話機の生産販売が出来た。単独電話機の保留音を球団歌にし、筐体を球団色、マスコットを入れたデザイン電話を生産販売する企画が出た。市場はニッチだが、熱烈なファンと販売チャネルがあれば、いけると判断し、優勝チームの電話を作る事にした。6月に優勝チームを決めないと、球団歌の音声icが10月の優勝セールに間に合わない。エイヤッと、セは広島、パは西武と決めた。

 技術部出身の新米事業部長は海外生産を提示した。営業は国産を要求する。当時の電気部品は、通信産業と民生に分けられ、通信産業用部品は品質が良い。海外部品の製造技術や品質に不安のある海外生産に大反対した。国内の外注生産も考えたが、納期が間に合わず、結局海外生産を了承してしまった。

 幸運にも2球団は優勝した。夕刊紙は、セ・パの優勝を6月に予測した会社と書き立てた。
 全国のカープファンから注文が殺到した。しかし夢想だにしなかった事態も起きる。ライオンズテレホンは西武デパートでは好意的に扱ってくれたが、西武鉄道が扱ってくれない。デパートと鉄道の不和の実態調査不足だった。

 危惧していた不安が発生。国内受入れ検査に合格電話機が、部品の経時変化で劣化、通話不能になる致命的な不良が続発、最悪の事態。お客様は大迷惑。全国に散らばっている不良品の交換修理に社員は苦しむ。品質より損益、技術屋にあるまじきアホ経営者の判断だったが、責任の一端はこちらにもある。

 お客様にご迷惑をかけ、期待を裏切った商いは未だに慙愧に堪えない。

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