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「800字文学館」

散華を集める

藤原 道夫

 ここ3年の間に、手元に3種の散華(さんげ)が集まった。
 散華とは、寺院で重要な法要が執り行われる際に道場を清めて仏を迎えるために花や葉を撒き散らすこと、またその花や葉のこと。芳香によって悪い鬼神を追い払う目的で行われる。元々蓮の生花が撒かれたが、いつしか蓮の花を模った色紙が用いられるようになった。入仏開眼や寺院の落慶法要では、大量の散華が撒かれる。
「薬師寺」と銘の入っている散華が3枚ある。3年程前、国立劇場小劇場で玄奘三蔵がインドから仏典を持ち帰る時の苦労話が伎楽(仮面劇)として演じられるのを見た。声明は薬師寺僧侶、三蔵役は狂言師が担当、他は天理大学学生の雅楽部メンバーによる。最後に散華が行われた。正面に向かって右手前方の席にいた私は劇が終わるや舞台への小階段を登り、散華を拾う行動に出た。続く人もいた。すぐに係員に制止されたが、拾った分は持ち帰ることができた。
 縁あって「東大寺大仏開眼千二百五十年慶讃大法要」の際に用いられた散華を頂いた。これは撒かれた際に拾われたものではなく、特別会員に配布された内の1枚。裏面に会津八一の歌が独特の筆跡で書かれている。
 東大寺の法要はテレビでも見た。大仏殿の前に幟の様な飾りが立てられ、扉前面は白・黄・赤・緑の垂れ幕で覆われている。灯篭前に舞台が設置され、盛装して整列した大勢の僧侶の前で華やかな伎楽が舞われ、そこに紙吹雪のように散華が撒かれた。まさに大掛かりなショーだった。
 もう1枚は、四天王寺(大阪市)を見学した際の入場券代わりの散華。「聖徳太子絵伝 絵堂特別御開扉 記念散華」と書かれた封筒に入っている。散華に四天王のイラストが描かれ、真ん中に色文字で「唯佛是眞」とある。
 これらの散華はそれぞれ形が微妙に異なり、独特の模様が描かれている。並べてみると美しく、ご利益に預かれそうな気がしてくる。世の中には散華の収集家がいるとか、自分にもその指向が有るのかも知れない。

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