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「800字文学館」

労働力は不足するのか

野瀬 隆平

 日本では高齢化と人口減少が、同時にかつ急速に進んでいる。このままでは社会・経済は立ち行かなくなる。深刻な労働力不足におちいり、移民を受け入れざるを得なくなる、と主張する人たちも少なくない。
 その一方で、人工知能が予想以上の速さで進化し、ロボットと繋ぐことによって、近い将来人間が働く仕事が奪われると心配する声もある。30年後には、一割ほどの労働者しか職にありつけないと極論する人もいる。

 一体どうなるのだろうか。両方の議論とも極端にすぎると思う。少々楽観的すぎるかも知れないが、期待を込めて言うならば、実際にはその中間、即ち必要とする労働力と供給とがバランスするのではなかろうか。
 勿論、人口構成の変化と人工知能の進化は、かつて経験したことがない早さで進むので、何の手も打たず黙止しているだけで、自動的にうまく釣り合いが取れるわけではない。過渡期には諸々の問題が生じる。労働市場での職種間のミスマッチ、地域間でのアンバランスなどが考えられる。可能な限り混乱なく移行できるよう、先を見越した政策を打っておくことが肝要だ。

 例えば、労働力が不足している分野については、人工知能やロボットの導入がすでに一部始まってはいるが更に促進し、給与面でも助成するなどそこで働く人が魅力を感ずるような環境を作る必要がある。
 地域間の人口の偏在や格差については、過疎化する村や町を統合して、一つのスマート・シティーを作るのも一つの解決法であろう。人工知能やロボット、IoTを活用したインフラを整え、交通や教育、医療を始めとする日常生活のあらゆる面で、快適に暮らせかつ無駄のない町の建設を目指す。ビッグデータも大いに利用すべきだ。

 日本の社会・経済のために今何をなすべきか。目前の景気をいかに回復させるかも大切であるが、近い将来確実に起こる変化にどう対応するのか、明確なビジョンを持って、具体的な政策を展開することがより重要である。

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