国民投票の危うさ
先日、英国のEU離脱を(Brexit)をBill Emmottさんの講演で聞いた。彼は「日はまた沈む」「日はまた昇る」などの著書で有名な、英「エコノミスト誌」の東京支局長を務めたジャーナリストで、日本に詳しい。話を総合すると、メリットよりデミリットが多いという。
投票結果に一番影響したのが移民の流入、投票直前に発生したテロ、若者、特に移民一世の失業率の高さであり、移民受け入れはもう結構という一般の心情であった。古くから、英国は大陸と別という民情も底流にある。詳細はこれから決まるが、メリットとして大陸からの無制限な移動は止めたい一般の要望は実現した。
一方、英国の将来の生活の糧はと聞かれると、シティが扱う世界の金融資本を支配する力と大陸と自由な交易を通じた産業の活躍であったはず。離脱はこの活動にブレーキがかかる。金融システムのノウハウは総て英語で構築され、その要に位置するのがシティだ。これが危ない。中心地が大陸のフランクフルトに移っても世界の中心にはなり得ない。シティの地位が守れるか。また、大陸との自由貿易がないと、関税障壁で国際分業の流れが阻害される。例えば、日立は列車の生産拠点を英国に置き、EUを通じで世界へ販路の拡大を図ったが、逆風が吹くかもしれない。これがデメリットだ。
国民投票というと、民主主義の理想的形式で、意思決定で一番公平な、望ましい形式と言う見方もある。しかし、Brexitの例から見て、人々の意志の決定は極めて近視眼的で、理性的でなく、一時的な感情に支配される恐れがある。日本では憲法改正は最終的に国民投票によるが、余程周到な深堀と、理解がないと、大きな失策を招く。例えば、憲法九条を変えると戦争になるという短絡的な発想や、また、条文には手を付けず、時々の解釈で、曲解でも通じると押し通すなどでは、世論が事実を直視できない危険な傾向だ。国民が的確な決断を下せるよう、大切な役割を担える優れた代議員を選ぶことは非常に大切だ。