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「800字文学館」

ポニーテイルのエース

首藤 静夫

 休日の多摩川。
 快晴の下、河川敷は多くの人で賑わっている。野球、サッカー、ジョギング、サイクリング、トランペット、たこ揚げなど思い思いの秋を楽しんでいる。
 一角でひときわ賑やかな声が聞こえてくる。少年野球場の方角だ。何かの大会らしく応援の父兄が多い。土手の上から見るともなしに見た。ポニーテイルの投手が投げているところだ。胸もお尻も発育が良く、なかなかの貫禄だ。投げる直前、肘を伸ばして調子を取る独特のフォームが面白い。
 三遊間のゴロ。俊敏そうな三塁手がさばき、きれいな球を一塁に送ってチェンジ。ベンチに帰ってくる三塁手を見て驚いた。やはりポニーテイルなのだ。女子が投手とサードを任されているのか。興味がわいてグランドに近づきまた驚いた。全員女子のチームだった。女子中学生のチームが男子中学生と対戦しているのだ。
 攻撃に移った女子。男子投手は小柄で幼な顔だ。コントロールが定まらない。女子ベンチの応援のすごいこと。一球ごとに声をそろえて甲高く――。姉たちにいじめられているようでこの投手が気の毒になる。かわいい投手は四球を連発して交代させられ、野手のエラーも重なり女子が二点先取。歓喜の女子ベンチ、沈黙の男子チーム。
 応援の母親に聞くと女子のチームは珍しくはないとのこと。小さい頃から野球に親しみ成長も早い女子は、中学生頃までは性差が大きくは影響しないようだ。試合は結局9対3で男子が勝った。草原でおにぎりを頬張っている彼女たち。負けても屈託がない。近づいてボールを見せてもらった。打球音が軟式ボールと違っていたからだ。大きい、硬い。むしろ硬式に近い。Kボールとかで、軟球と硬球の中間だそうだ。本格的なボールで男子と互角に戦っていたのだ。
 東京六大学野球にも近年、女子の投手が現れている、明治、東大、慶応などで。110キロ~130キロで投げるというからすごい。
「少年野球場」の掲示版が見直される日も近いだろう。

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