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「800字文学館」

「びっくりぽん」の一年

野瀬 隆平

 今年はやった言葉に「びっくりぽん」がある。連続テレビ小説「あさが来た」で主人公が口癖の様にいう言葉だ。この一年を振り返って見ると、まさに「びっくりぽん」がいくつもあった。イギリスのEU離脱や、まさかのアメリカ大統領選挙の結果。
 確かに、多くの人たちには予想に反した事なので驚きだったが、このような事態を予見しその可能性が大きいと考えていた人には、必ずしも驚きではなかっただろう。
 そんな一人にエマニュエル・トッドがいる。その名前を初めて知ったのは三年ほど前、日本の人口問題について勉強しようと思い、文献をあさっていた時だ。
 このフランスの歴史人口学者は、少子化の理由について他の人たちとは少し違った考えを持っていた。一般的には将来の生活や子育てに対する経済的な不安が主な理由だとするが、トッドは社会・経済の発展にともない、大衆の識字率が向上し女性も読み書きができるようになる。その結果、受胎調整を行うようになった為だとする。
 トッドはイギリスのEU離脱を早くから予言し、今回のアメリカ大統領選挙についても、大方の見方に反してトランプ氏が選出される可能性がかなりあるといっていた。
 現象面だけを皮相的に捉えるのではなく、文明や社会構造の変化の底流にあるものを洞察し、現在の社会がどこに位置しているのかを見極めることが、いかに大切であるかをトッドは教えてくれる。長期的な視点で、かつ具体的なデータに基づいて考察する手法は、昨年ブレークした同じくフランス人のピケティと通じるものがある。
 グローバル化が進んだ結果、そのひずみや行き過ぎに対して、恩恵にあずかることが出来ない非エリート層が反乱をおこし、元の枠組みである国民国家へ回帰しようとしている。この大きなうねりが、世界の各地に押し寄せていると考えてよいのだろう。
 時代の潮目が変わろうとしている今日、個々の出来事にびっくりしないで済むように、しっかりと流れを見定めたい。

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