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「800字文学館」

モーツァルトの遺作 レクイエム

川口 ひろ子

 レクイエムは、カトリック教会の式典の中で演奏される死者の冥福を祈る宗教曲である。
 今日、レクイエムの宗教的色彩は薄められて、純粋に音楽作品として演奏されることが多い。その中で最も優れたもののひとつが、モーツァルトのレクイエムである。わが国でも早くから鎮魂ミサ曲と訳されて演奏され、多くのCDが販売されている。またプロ、アマを問わず合唱団では必ず歌われるレパートリーとして、「モツレク」なるニックネームを持ち、広く愛されている曲だ。

 モーツァルト没後200年にあたる1991年、ウィーンのシュテファン大聖堂で「モーツァルト追悼ミサ」が行われレクイエムK626が演奏された。この模様は全世界に衛星生中継され日本ではNHKテレビで放映された。現在私たちは60分程のこの曲を全曲通しで聴いているが、この日の演奏はキリエ(主よ哀れみたまえ)、サンクトス(聖なるかな)など楽章毎に切り離されて、聖職者の祈りや説教など式典の進行に合わせて演奏されていた。ミサ曲本来の使われ方がわかり私たち仏教徒にとっては大変有意義な番組であった。

 1791年12月5日、モーツァルトは35歳で他界した。レクイエムの前半は彼によって書かれ、後半は弟子のジュースマイヤーにより補筆された。曲の中程、ラクリモーサ(涙の日) の章の8小節目で、モーツァルトの筆は止まっている。 
 大波のうねりのような合唱、ソプラノは喘ぎながら急な坂を半音ずつよじ登り最高音に達したところで力尽きる。まるで、モーツァルトの魂の叫びを聞いているようだ。

 今年12月5日はモーツァルトの没後225年目の命日だ。
 この世に生きる限り人は必ず死ななければならない。その現実に向き合った時どの様に折り合いをつけるのであろうか?モーツァルトはその答えをラクリモーサの楽章の中に音楽として表現し、私たちに残してくれたのかもしれない。
 秋の夜は長い。じっくりと耳を傾けてみよう。

 ラクリモーサ(涙の日)
 「モーツァルトのレクイエムは全14章からなり、ラクリモーサ(涙の日)はその第8章にあたる。罪ある人が裁かれるために塵から蘇るその日こそ涙の日。永遠の安息を与えたまえ。と歌われる」

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