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「800字文学館」

見掛け倒し

濱田 優(ゆたか)

 4月、大学の各サークルが校門付近に立て看板を並べ、ビラを配って新入生を勧誘する光景は、今も昔もそれほど変わりないようだ。
 昔、私が大学に入ったとき、身長180センチの体格が注目を浴び、幾つかの運動部に誘われた。だが、運動神経が鈍いので俊敏さが必須のバスケやラグビーは無理。相撲は子供相撲で五人抜きしたことがあるが、自称都会派としては気乗りしない。
 バレーボールはどうか。その頃は九人制バレーが主流だった。中・高でクラス対抗試合なら経験があるし、スパイクはいささか自信がある。で、熱心な誘いに応じた。
 歓迎コンパで持ち上げられ、先輩の期待を一身に背負って初練習に参加した。
 最初はサーブ。相手のコートにボールを入れるのが精一杯で威力がない。スパイクは打ち易いところにトスが上がればさすがに強烈だ。が、ちょっとトスがずれると対応できず、戦力にはほど遠い。
――こりゃ、見掛け倒しだ――
 落胆した先輩たちの顔を見て、自分が情けなくなった。

 この青春の苦い思い出は、長年そっと胸の奥に仕舞っておいた。ところが最近、ある人をテレビで観て昔の記憶が蘇った。
 この夏の都知事選に出馬した鳥越氏である。過去の例から絶対有利といわれる「究極の後出しジャンケン」で立候補。知名度も高く、当選間違いないと思われた。なのにメディアの世論調査でトップだったのは出馬表明の直後だけ。彼の実体が明らかになるに従い、日を追って支持率が低下して惨敗してしまった。あれだけ気力も体力も政策も弱ければやむを得ない結果だろう。
 まさに見掛け倒しで、多くの都民の期待を裏切った。私も落胆した一人だが、彼もあの日の私と同じく、途中で自分が情けなくなったに違いない、と思うと責める気が失せる。
 それより、彼を担ぎ出した野党、ことに民進党には怒りを覚える。投票日の前日に党首が敵前逃亡をするなんて言語道断。選挙の翌日の赤旗紙で「鳥越氏が大健闘」と讃えた共産党の方が、礼に適ってまだましである。

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