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「800字文学館」

神無月の雪

志村 良知

 11月24日(旧暦神無月24日)の関東地方に雪が降っている。
 この季節に関東地方に雪というのは、昨晩の天気関連ニュースでも54年ぶりと繰り返していたが非常に珍しい。
 関東地方の雪は、冬型の気圧配置の中で東シナ海辺りで発生した低気圧が太平洋岸を東進する時降りやすい。南岸低気圧と呼ばれるこの低気圧が雨を降らせ、寒波が低温をもたらして雪になる。雪国では寒波一発で雪になるのとはメカニズムが根本的に異なる。

 昨晩からの天気の解説では、北海道で猛吹雪となっている極めて強い寒波が関東地方まで南下して雪になる、と言っている。あたかも寒波が単独で関東地方に雪を降らせるかのようである。「おいおい、その雪の元の雨水はどこから来るんだよ。それだと、物凄い寒波が3000メートルの本州脊梁山脈を越えて雪を降らせるようじゃないか」
 中に南岸低気圧がどうの、という解説も混じる。「おいおい、太平洋岸に近い低気圧は全部南岸低気圧と称して良いのかよ、それにはちゃんと定義があるだろうに」、と気象予報士試験落第生は毒づく。
 真冬でも、シベリアからの寒波の吹き出しが日本列島に衝突してつくる雪雲は脊梁山脈は越えられず、関東地方が寒波だけで雪になる事は無い。風花は舞っても空は快晴、空っ風が吹きまくる。また南岸低気圧とは、東シナ海付近で発生し日本列島の南岸を温暖前線と寒冷前線を伴って発達しながら東進する低気圧、と定義されている。

 では、今日の雪は何なのか?
 昨日からの天気図を見ると、日本列島西部を覆う大きな低気圧と太平洋の高気圧の間に東西に延びる前線が形成され、その中で発生した低気圧が前線と共にゆっくり東進、それが雨を降らせているようである。いわば秋の名残のようなところに襲来した寒波が雨を冷却しているというメカニズムのようだ。これは非常に珍しい状況である。 我々は、今、気象学的に非常に珍しい現象の真っただ中にいる。心して時を過ごそうではないか。

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