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「800字文学館」

味気ない戸建て住宅

稲宮 健一

 今住んでいる所は戸塚と上大岡の中間にあり、小高い台地の新興住宅地である。御多分にもれず、高齢化による空き家が目立つ。住宅地はバス通りを挟んで、少し広めの道が通じた所に七十坪平均の家並が広がっている。

 空き家にまずやってくるのが、蟹の鋏みたいな腕を備えた重機で、瞬く間もなく一軒の家がゴミとなって、ダンプカーの荷台に収まる。更地になると、不動産業者が来て、半分のところに杭を建て、宅地販売の看板が立つ。ここは横浜市の住宅協定に加入している市街地で、環境を守るため細分化しませんと協定書にサインしているが有名無実のようだ。

 更地に戸建て住宅を建て売り出す業者も多い。半分の土地に建てた戸建てもそうだが、分割しなかった新築家屋にも共通した傾向がある。四方が壁に囲まれてて、南側を開放的にし、植栽を親しめる作りがない。理由の一つは分かる。筑波の建築研究所で、戸建て丸ごと振動台に乗せて耐震実験をデモしている。この住宅は殆どが壁構造で耐震性は優れているのだという。
 しかし、大手建設会社が三方開けて、庭木が見渡せる住宅のコマーシャルを流している。このような緑を親しめる住宅を狭い宅地で作るのは無理だろうが、いくら地震大国だからって、壁に囲まれた住宅は住環境に工夫がない。壁でも、一面の板にせず、一部厚くして、柱への力の分散を熟慮して、広く庭木が親しめる家を建てたら如何だろうか。

 テレビのクイズ番組でタレントが座る後ろに、昔風の日本家屋の広く開けた廊下のガラス戸の向こうに緑濃い庭木が見える場面が気に入っている。その情景に心が和む。日本は昔から鎮守の森があり、うっそうとした森には神が舞い降りとして神社を建てた。西欧の社会では、森には狼がいて恐ろしいところと教えられているようだ。国立競技場も緑を取り入れた作りになる。木材、緑を大切にした建築が世界に広がることを期待したい。雷門、銀座、渋谷から観光資源が緑の大国まで移ってほしい。

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