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「800字文学館」

真田丸『女同士の和睦交渉』

清水 勝

 NHK大河ドラマ『真田丸』は愈々最終局面である。前半は真田昌幸の「大博打の始まりじゃあ!」に代表される地方武士の生き様が描かれていた。先般の大坂冬の陣では女同士による和睦交渉に焦点が当てられた。
 戦国時代の終結舞台に女性の登場とは、何とも不思議で歴史の面白さでもある。重臣間の交渉では、淀殿の江戸人質問題と城中諸牢人の処遇で折り合いがつかず、豊臣方は淀殿を守るべく女性の登場で円滑に和睦をと考えた。
 交渉役には、豊臣方は淀殿(茶々)の乳母で、奥を支配していた大蔵卿局と、淀殿の実妹であり、徳川秀忠の正室・江の実姉でもある常高院・初であった。これに対し徳川方は本多正純と家康の側室・阿茶局であった。
 豊臣方は戦を知らぬ淀殿の縁者の女性に対し、徳川方は戦上手な重臣本多正信の嫡男と、側室とはいえ武術の心得があり、小牧長久手の戦いに若衆姿で家康に同行した猛女である。もはや勝負は明らかで、徳川方は条件を示し、豊臣方はそれを承るという形になった。その和睦交渉では織田信長の末妹お市が生み残した茶々・初・江の浅井三姉妹の意地があった。
 長女茶々は秀吉の側室であり、秀吉没後は豊臣方の実質的な権力者であった。三女江は三度目の結婚で徳川秀忠の正室になった。
 関ヶ原後の徳川は秀忠が二代目将軍となったことから、かつての天下人の妻は淀殿であったが、今やその地位は末妹の江となる。淀殿にとって江戸へ人質なんてことはとんでもない。
 茶々と江がトップレディを競っている中で、次女初は幼馴染の近江の弱小大名京極高次に嫁いだ。それがために茶々におべっかを使って夫の碌高を上げさせる働き掛けをしてきた。そして今は中立的な立場を装いながら、徳川方である義息京極忠高の陣地を交渉の場にし、徳川方に有利となる和睦を導く働きをした。
 その甲斐あって、京極忠高は二十六万石の出雲松江藩主となった。大阪船場でいう『なかんちゃん(次女)』のしたたかな生き様である。

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