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「800字文学館」

舞岡の冬支度

稲宮 健一

 我が家から横浜地下鉄上永谷駅までの商店街一㎞程の両側に銀杏並木がある。今この銀杏が一番美しい時期だ。ここに引っ越してきた三十年前ごろに植えられた木が、今や神宮外苑なんのその、歩いて行けるところに輝くような黄色一面の並木が行く人を楽しませてくれる。おかしなもので、歩道を歩いているとそれほど感じないが、運転席から眺めると視点が下がり、左右上下、両脇が銀杏に包まれるように走れる。もみじだけが色彩の王様ではない。

 徒歩十分のところに舞岡公園がある。ここは鎌倉時代に何かの折、源氏の白旗がふらりと舞い降りたので、吉兆だとして、舞岡と名付けられたと伝わっている。公園の中の営農地区の田圃も、市民クラブの田圃も稲刈りが済み、切り株だけが寂しそうに残っている。豊年満作だったのだろうか。まだ、壊れかかけたコンクール出品のかかしが放ってある。毎年、子供たちを集めて新米のお餅つきが古民家の庭で行われる。今は田を休ませ、レンゲを咲かせるのだろうか。時が過ぎ、暖かさと共に、また、子供たちの田植えの賑わいがはじまる。

 池とも言えない小さな水たまりがあり、背丈より伸びた葦が密集して生えている。その間を縫って、鴨の番が餌をついばみながら泳いでいる。つい先ごろまで、水枯れしていたのに、餌があるのかな、また、どこから飛んできのだろう。JR戸塚と大船に沿って脇を流れる柏尾川に鴨や、白鷺がいるのを見たが、あそこから、こんな小さな水たまりをどうして見つけられのかな。動物の勘には感心する。この池が柏尾川にそそぐ舞岡川の源流になっている。春の小川はこんな流れを歌ったのか。少し低くなった繁みの中を小川は流れる。かつて息子達のザリガニ取りの遊び場だった小川は今、流れが透き通るようにきれいなったお蔭か、梅雨前になると蛍の飛び交う名所になっている。来年は今年より少し早く、五月の末には行かなければ。谷戸の蛍見物はこの近辺では結構有名になっている。

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