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「800字文学館」

インドの決断

野瀬 隆平

 アメリカの大統領選でトランプ氏が勝利したというビッグ・ニュースの陰であまり大きくは報じられなかったが、重大な意味を持つ報道があった。

 インドのモディ首相が、11月8日に突然テレビで声明を発表した。
「翌日から高額紙幣である1000ルピー札と500ルピー札を使えなくする」という衝撃的なものだ。
 小国の暴君ではない。経済成長が著しい人口13億人の大国の首相が、日本でいえば、「明日から1万円札と5千円札を使えなくする」と発表したようなものである。
 勿論、所持しているお札が店で使えなくなるというだけで、無効になるわけではない。年内に銀行や郵便局に預け入れ、新たに発行される紙幣(2000と500ルピー札)に換えれば問題はない。
 何故、この様な政策を強行したのか。報道によれば、汚職と脱税による不正蓄財を一掃すると共に、偽装紙幣を根絶するためだという。猶予期間をおかず突然実施したのは、準備期間を与えて資金を海外に送金したり土地や金に換えたりするのを防ぐためである。

 このニュースで思い当たるのが、今年の5月に書いた私見である。日本の経済が低迷する理由の一つに、マネーの流れが滞っていることがある。その解決策として、「デノミの名目で新円に切り替える」のはどうかというもの。
 不正に隠し持っているお金が市場に流通し需要回復に寄与する。同時に個人が所有する金融資産が正確に捕捉され、公平な資産課税が可能となり格差の解消の一助となる。但し、事前に察知した者が資産を逃避させるのをどう防ぐかが大きな問題であると指摘した。

 正にこの政策を敢行したのが、今回のモディ首相である。逃避の時間を与えない考慮もされている。
 あれから一か月、インドでどのような影響が出ているのか。直後にはかなり混乱を生じたようだが、今後どのような反応・効果が表れてくるのであろうか。同じような考えを持つ者として、この「壮大なる実験」の結果をしっかりと見定めたい。

《参考》1000ルピーは約1600円、500ルピーは約800円。

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