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「800字文学館」

オラトリオ

安藤 晃二

 オラトリオと言えば、ヘンデルの「メサイア」である。その「メサイア」を我が町の市民合唱団が演奏するというのだから驚きだ。なかなかの聴き映えであった。熟年美女軍団と矍鑠たる老青年達からなる、品のいい七十人のコーラスが頼もしい。四人のプロの独唱の素晴らしさは言うに及ばず。旧約聖書の預言者によるメシア=キリスト出現の予言からイエスの降誕、苦難に満ちたその生涯、死と復活、神への賛美(ハレルヤ)と信仰の真髄が歌われる。歌詞は聖書のヨハネ黙示録から抽出されている。全曲は二時間半に及ぶ長い演奏であった。聴衆もコーラスも皆、「ハレルヤ」の高揚感を求めて集まる。
 オーケストラは古楽器奏法に依り、各パート独奏のプロにより演奏され、弦楽カルテットにコントラバス、木管、ラッパとティンパニー、オルガンが出演した。ビブラートを一切排しての演奏は、音そのものの透明感、フレーズのめりはりが効いて、味わい深い。ヘンデル(1685-1759)はドイツ生まれ、イタリアに滞在、スカルラッティやコレルリと親交を持つ。その後、生涯の大部分を英国で過ごす。「メサイア」は作曲した数十曲に上るオラトリオの一つ、現在の日本で、この人気は凄い。

 オラトリオは十七世紀以降、イタリア、ドイツ等で多く作曲された、聖書を題材に宗教的な、物語風の内容が特徴で、オーケストラ演奏と共に歌われ、レシタティーボ(語り)が含まれ、劇場演奏にも適している。オペラと並び、当時から愛され続けたジャンルなのだ。

 二〇〇二年ニューヨークで、Mostly Mozartという夏の音楽祭が企画され、スカルラッティによるオラトリオ「三位一体」の世界初演を聴く機会があった。若々しいイタリア人歌手達が「信仰」、「神の愛」、「誠実」、「時間」等抽象概念の名付けられた役柄を演じ、その魅力溢れる歌唱力に感銘する。リュート(ギター風古楽器)が、珍しい。指揮者はノリントン氏、開演前、自らの得々とした古楽器講釈の長さにブーが出たのは御気の毒であった。

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