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「800字文学館」

皇帝ダリア始末記

大月 和彦

 秋が深まりあちこちに淡いピンクの花が空に突き出ているのが見られるようになった。
 皇帝ダリアだ。別名ツリーダリア、キク科で原産地はメキシコ。
 立川の昭和記念公園に植えたのが始めといわれ、口伝えで園芸愛好家に広がったらしい。
 仰々しい名前がついているのは草丈がきわだって大きくなるから。晩秋に他の花がなくなった頃、先端に淡いピンクの大柄の花をつける。

 四年前の春、家内が友人から一株譲ってもらい庭に植えつけるとみるみる生長し、秋には3mを越えるようになった。一日に2㎝近くも伸びたことになる。竹のように節がある茎は空洞になっていて、根元での太さがは7,8㎝にもなった。
 栄養分を貪欲に吸い上げるので、周りの雑草は遠慮してか勢いが削がれ、除草の手間が省ける余得があった。狭い庭の様相を一変させるほど大きな勢力を張ってしまった。

 秋が深まると、一株に50個ほど花をつけた。華麗さがなく孤高を保って咲いているのでひときわ目立つ。通る人からきれいですねと褒められたり、何の花ですか聞かれたりした。

 茎は枝や葉を支えるにはきゃしゃ過ぎて、風と雨に滅法弱い。まさにウドの大木だ。
 風速30mを記録した今年8月末の台風の時は、茎にスポンジをあてがって園芸用の鋼鉄パイプで四方から支え、風に備えた。が、素人の補強策などわけなく突破され一株は根元からポッキリ折れてしまった。
 残った一株は倒れたものの根が浮き上がっただけだった。引き起こし支柱を増やした上、風向きの反対方向からロープで引っ張って補強をした。

 満身創痍の状態のままで開花まではもち堪えるかに見えた。10月中旬、大雨と突風に見舞われたとき、見事に根元から折れてしまった。風が予想したのと逆の方向から吹いたらしい。
 切りとったつぼみを活けておくと部屋の中で弱々しいが花をつけてくれた。

 これでわが家の皇帝ダリアは終わった。外来植物はなじまなかったのだろう。晩秋にはやはり野菊が似合うようだ。

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