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「800字文学館」

年末数え歌

稲宮 健一

一.
俺が第一はやりだす。あっちでも第一、こっちでも第一、国際協力捨てておけ。倫理より、お得を較べて囲い込む。
二.
隣国は太平洋を二つに分ける妄想を抱く。ワイキキの西に赤旗立てて、これより西は遊泳禁止、俺の許可なく入るなよ。こんな国際法を作りたい。
三.
三代目、親父の遺産、核設備へ裏の技術を買いまくり、国の富など糞くらえ、核の幻想に酔いしれる。
四.
夜目遠目笠の内、楚々とした、こんな美人今いない。冬なのに太い太腿ヌーと出し、髪は茶髪で、後ろ姿は外国人、まつげは外付け、赤い口紅、濃い化粧、良く見ればお前はニューハーフ。
五.
ごまかしじゃない、お告げに素直に従った。ぼく、決断できないから、祈祷師まがいに皆依存。授業料は高かった。古の日の下でも卑弥呼にお伺い立てた故事あり。独島に登って許してくれと叫びたい。
六.
碌でもない。賭博渡世など人の屑。だがね、これは昨日まで。お膝元でも、ブラックスーツにネクタイ締めて、シャンパン片手にブラックジャック、かっこよくチップ積めば、これぞ紳士のなりわいだと。
七.
七難去って、また七難。大八洲の豊穣の海底に広がる割れ目の群、背骨となる髙かい土手、巨大地震が飛び出したり、列島に沿って台風群吹き荒れ、災害の試練は運命か。耐える建築、耐える治山治水、即席仮設の家、せめて売りたいこの経験。
八.
八方広がり、若かりし往時の研究に連続ノーベル賞、次はお前だ、若人よ。資源はないが知恵はある。炭素繊維、ナノファイバ、ナノチューブ、つきが回れば、海底に眠る鉱物資源、メタンハイドレート、未来は広がる笑顔でね。
九.
九十歳、いや九五歳はざら、金さん銀さんはあっちこっちで当たり前。日野原先生百四歳、団塊の世代への献身的な介護術を、少し後、近隣の高齢化社会へ高く売れ。
十.
とうとう今年もあと少し、来月二十日、トランプの騒々しい世界が御開帳、エース引くのは誰、ババは誰。世の中ひっくり返り、混沌か。

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