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「800字文学館」

またも斑鳩へ

藤原 道夫

 斑鳩は何度訪ねたことだろう。「いかるが」という呼称に何とも言えない魅力を感じながら。その響きに惹かれて、晩秋のある日またも斑鳩にやって来た。
 JR法隆寺駅前からバスに乗り、法隆寺前で降りる。バスは門前まで行くが、そこまでの松並木が素晴らしいので歩く。南大門の簡素ながら重厚な姿には何度来ても圧倒される。土塀につながる曲線も美しい。門をくぐるといよいよ法隆寺境内、西院伽藍の中心が目に飛び込んできて身の引き締まる思いがする。
 中門の前に立つとその堂々とした構えに目を見張る。ここから左手に歩み、石段を登って西円堂へと進む。何時からかこの道を辿るのが慣例となった。堂内に薬師如来坐像が祀られており、近辺の人々は「峰の薬師さん」とよんで親しんでいるとか。鐘楼の鐘が時刻になると脳天を震わす音を響かせる。小高い所から斑鳩の里を眺め、木立の向こうに五重塔の上部と金堂の屋根を望む。ここで気持ちを整えてから回廊内部に向かう。
 そこは真に神聖な領域だ。中門内部から五重塔と金堂を見上げる風景は神々しいばかり。連子格子から漏れ来る優しい光を全身に受けつつ回廊を巡る。薄暗い金堂内に入り、吉祥天立像・毘沙門天立像や壁画の飛天に目を凝らす。
 東院伽藍も一通り見学、夢殿に鎮座する行信僧都坐像に見入り、強固な意志を宿す顔貌に何時もながら敬意を表す。秘仏・救世観音が開扉されており、手を合わせてお顔を拝観。その後15分程歩いて法輪寺へ。破損した仏像にも人の心を動かす力が備わっていることを改めて知らされる。更に20分程歩いて法起寺に辿り着き、有名な三重塔を見上げる。4時間半に及ぶ今回の斑鳩散策はここまで。好天に恵まれ、心地よい疲労感を覚えながら満足感に浸った。紅葉も結構楽しめた。
 自分の体内時計には「斑鳩散策の時」が刻印されているかのよう。帰ってからある時期が経つと、斑鳩へ誘う信号が伝わってくるのを感じる。足腰が丈夫な限りこの信号に忠実でありたい。

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