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「800字文学館」

稼いだお金は誰のもの

稲宮 健一

「売り手よし、買い手よし、世間よし」が古くから近江商人の教訓と聞いている。中国の新規な労働力の供給が始まった時期から、世間よしの風潮が消えていったようだ。開放経済の広がりで、中国、次にベトナム、ミャンマーと人件費の相対的な安さを狙い、脇目を振らず途上国に工場の一部を移転させた。その影響は地方都市のシャッター街をみれば、単に少子化だけが原因ではないことが分かる。

 米国第一を叫ぶトランプ大統領もこの現象を敏感に捉えて民心を掌握したようだ。経済の専門家はグローバルな自由経済下でより安く製品が製造でき、より多くの人に製品が届き、企業の拡大が経済の好循環を生み、豊かさが広がると主張する。その流れを実証するため、資本、生産設備、労働者、経営者、顧客等の経済循環を数学モデルで表現し、この輪が拡大するように注視し政策が立案される。しかし、この循環を動かしている実務者の幸福度の表現を示す機能が抜けているのではないか。生活実感が訴えられないモデルから本当の社会の問題点は掴めない。

 人々の生活感はこれとは別の家計調査とか、マスコミが少数のサンプリング調査で報道している。しかし、経済循環を動かしている実務者が一番正確な実感を持っているので、、従来のモデルの中に国内すべての人の生活実感の要素を主要要素として組み込んではどうだろうか。いまの情報処理はこのくらい膨大なデータ量は扱える。データの塊がしっかり格納されれば、為政者は色々な側面からリアルタイムで状況判断のデータを引き出せる。時間遅れなく政策を実行できる。

 大雑把な捉え方だが、海外流出した企業の従業員は生活苦に直面するかもしれない。一方安い人件費で製品が出来れば企業は利益が増す。国内と途上国間で生じた差から浮いた人件費の利益の一部を別勘定で分離して、国内勤労者の再就職や、能力向上に役立ように還元する施策をとっては如何か。タイミング良く行えば社会の安定につながる。

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