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「800字文学館」

双子の孫娘

浜田 道雄

「ダメだよ、ラン! 神様はあたしがねえさんって決めたんだから。あたしが先に生まれるの! あなたはこの次よ!
 お父さんとお母さんが『生まれていいよ』っていうまで、あたしは二〇年も待ったんだよ。今度生まれなかったら、またいつお父さんやお母さんが産んでやるっていうか、わからないじゃない!」
「わかってるよ、マリねえちゃん! でもね、あたしだってなん年も待ってるんだよ。それにおねえちゃんが生まれちゃったら、あのズボラなお父さんやお母さんは『子供は一人でいいや』なんていうかもしれないでしょ?
 だから、あたしだって今度生まれなきゃ、もうチャンスはないかもしれない」
「ダーメッ! あなたが先に生まれたら、ランがおねえちゃんになっちゃうじゃない。そんなのダメだよ」
「そうだ! 一緒に生まれちゃおうよ! おねえちゃんが先に生まれていいよ。あたしはおねえちゃんの足にしがみついて行くから! お父さんもお母さんもびっくりするよ」

 二〇年近くも子供に恵まれなかったバンコクの息子夫婦に、昨年の秋ようやく娘が生まれた。しかも双子である。長い間待たされた孫娘たちは「これから生まれるこどもの国」で、多分こんな会話を交わしていたのではなかろうか。

 息子夫婦が孫娘の誕生を喜んでいることはもちろんだが、わたしは彼らとはまた違った思いをもって二人が生まれたことを喜んでいる。一昨年逝った家内は双子の姉妹として生まれた。だから、同じ双子として生まれた孫娘は輪廻転生の縁に従って再びこの世に戻ってきた家内の姿に見えるのだ。

 孫娘たちは二つの国籍をもち、いくつものちがった言語環境と文化社会のなかで育っていく。今日のグローバライズした世界ではそんなに珍しいことではないが、日本という限られた世界と激動の時代のなかで過ごした私や家内の人生とは大きく違った人生を歩むに違いない。
 そんな世界で、二人がどのような生き方をしていくのか。楽しみでもあり、気がかりでもある。

(注・「書こう会」では「先に生まれた児」を妹とするのが慣習だとの指摘を受けたが、その後戸籍法は「さきに産まれた児を長子とする」と定めていることを知ったので、指摘を受けた部分の訂正はしていない)

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