作品の閲覧

「800字文学館」

九品仏の早春

首藤 静夫

 木々の高みから聞きなれない鳥の声が聞こえる。
 世田谷の九品仏(浄真寺)の参道である。ケヤキの大木からギィー、キィーと何かを引っ掻いたような大きな声がする。耳を澄ますと少し遠くの木々からも――インコだった。色の鮮やかさですぐ分かった。この沿線の大岡山の森に巣作りをしていることは聞いていた。そことは大して離れていない、なるほどと思った。
 それにしてもこんなカラフルな大きな鳥が自然の林の中で群れて鳴いているのは不思議な気がする。ヒヨドリよりやや大きめ、カケスくらいか。カケスの羽も美しいが、このインコは全身黄緑色だ。日本の自然にマッチしているとはいいがたいが、早春の日を浴びて輝いていた。
 あとで調べるとワカケホンセイインコと分かった。首のまわりに輪をかけたようなリング状の模様がある、名前の由来だろう。『ビルマの竪琴』で水島上等兵の肩にとまっていたインコと同じ種類かどうか? 物語の中では水島と彼の部隊の間の伝達役として重要な役目を果たすインコだが、無常観の漂う、日本の寺の参道で鳴いているのが面白い。
 この鳥の繁殖力は旺盛で国内各地に広がっているそうだ。固有種の生存が脅かされる心配がある。房総半島ではキョンという外来の鹿の仲間が早いテンポで増えているとか。何もかもがグローバル化されている。
 山門をくぐると今度はアトリが出迎えてくれた。スズメくらい、文鳥のようなくちばしの小鳥で黄褐色がきれいだ。木々の小枝を群れで飛び回っている。寒いシベリアで過ごし秋に日本に渡ってくる冬鳥だ。
 この寺の樹木の多さのせいだろう、エナガやシジュウカラ、コゲラの一団もいた。エナガの愛くるしい目と長い尾――まだという方は是非一度ご覧いただきたい。都会地も少しはいるとこんな風景が残されている。メジロ、キジバト(山鳩)、ツグミなども現れ、思わぬ観察日になった。
 寺院や仏像も見て回ったが信心の乏しい身ゆえ記すものは何もない。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧