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「800字文学館」

首都直下地震の鉄道防災

稲宮 健一

 母は下町の浜町育ちで、十歳の時に関東大震災に見舞われた。家から避難して、人で溢れる隅田川の橋の上から弟と一緒に川に投げ込まれた。幸い船に助けられ九死に一生を得たと良く聞かされた。

 退職後、戸塚駅のプラットホームで、何となくぼんやり列車の走ってないレールを見ながら、地震が来て列車が脱線したらいやだなと思いながら脱線防止の方法を考え始めた。

 内閣府はM7クラスの直下地震が首都を襲う確率は三十年間に七十%と警告している。また、首都圏の通勤、通学時の乗車人員は朝一二〇万人、夕方八〇万人と算出されている。地震発生のXデイに多くの人を捲き込んだ災害が発生する悪夢は起こってはならない。首都直下地震は震源が極近いので、予震(P波)の直後に本震(S波)が襲い、地震警報発令直後に高速(100km/h)で走行中の電車が本震に襲われて脱線することがあり得る。

 筆者は車輪とレールの関係を観察した。車軸に固定して取り付けられた二つの車輪は自動車と異なり、可動部を持たない単純な構造である。にも関わらず車輪のレールに接する踏面に緩い傾斜があり、その延長上に車輪の回転をレールの方向に案内するフランジがあり、ここにも垂直面に対して傾斜がある。この仕掛けのため、車両は直線と曲線を円滑に進行できる。しかし、フランジに傾斜角があるので、脱線を起こしやすい欠点を持つ。そこで、脱線防止の目的のためフランジ角を垂直にすれば脱線が起きにくい。但し、既存の車輪を変えること不可能なので、台車枠に垂直なフランジ角を等価的に実現できる付加物を取り付ける構想を考えた。レールを見ると、継目板、踏切板、ポイントなど構造物が存在する。付加物がこれらと突き当たるのは困る。車輪が回転してレール上を走行するとき、フランジが通過する空間は空いた空間である。この空間に脱線防止の物体取り付ける案だ。素案はでき、ある程度の検証も行った。あとは案を成長させ、賛同者増やすのみ。

(二〇一七・三・二三)

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