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「800字文学館」

村上のサケ(鮭)

大月 和彦

 山形、新潟県境の朝日山地から流れ出し、新潟県村上市で日本海に注ぐ三面川 は、サケが遡上する川として知られている。
 村上とサケの関わりは古く、平安時代に村上のサケが都へ貢納されていた。

 江戸後期に、ある村上藩士がサケの母川回帰性に着目し、産卵と孵化がし易いように三面川に長さ800mのバイパス水路「種川」を設けた。遡上するサケを「種川」に誘導して自然産卵を助け保護した。この自然増殖策で漁獲高が増え藩の財政が潤った。
 明治になってからも、旧士族たちは三面川のサケの保護に取り組み、採卵、孵化、稚魚の放流など人工増殖事業を行なっていた。

 サケの消費量が日本一で、特別の思いを持つ村上には独特のサケ文化が育っている。三面川畔に作られた「イヨボヤ会館」ではサケの生態、種川の仕組み、漁法、遡上する成魚などを観察できる。

 村上には、内臓、皮、骨まで余すところなく食べるといわれるほど徹底的に考え抜かれたサケの郷土料理が百種以上あるといわれる。
 数多いサケ料理の中で代表的なのは塩引きだ。
 塩引きは昔ながらの手が込んだ方法で作られる。サケの内臓を取り除き、尾から頭の方へ塩を擦り込む。表と裏を返しながら4~7日間ほど塩を馴染ませる。塩加減が決め手。最後に10日~2週間、寒風に晒し乾燥熟成させたのが「サケの酒びたし」。塩分と微妙に絡み合った究極の珍味だ。
 村上では各家で作り、祝い事などに少しずつ切って食べるという。

 サケのシーズンが終わった1月下旬の村上。街の中心部にある「塩引き街道」の商店の軒先に腹を裂かれたアメ色になったサケが吊り下げられていた。
 昼どき、サケの料理店に入り、焼き魚定食を頼んだ。小鉢が付いたみそ汁と漬物だけのシンプルな一品。分厚い切り身が大きな皿に載っている。ほんのりとしたトキ色。箸を突っ込むと身はすぐほぐれる。
 塩辛くはなく程よい塩加減、口の中で脂分と溶け合う。パリパリに焼かれた皮は香ばしい。
 新潟のご飯と地酒「〆張鶴」で、豪華なランチをした気分になった。

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