作品の閲覧

「800字文学館」

金のなる木

濱田 優

 わが家の狭い庭に冬の寒さと乾燥に耐えた一鉢の植木がある。
 高さ四十センチほどの、小振りの丸い多肉質の葉を持つ花木。何処からか飛んできた種子から芽生えた苗を鉢に植え替えたものだ。名はわからず、街の園芸店で探しても見当たらなかった。
 正直、花は貧弱で観葉植物としても今一つの感じ。で、捨てようと思ったけれど、冬枯れの草木が多い中で、健気に常緑を保っている姿がいじらしく、処分しかねていた。

 三月のある日、近所のクリーニング店に冬のコートを持って行った。日当たりの良い店先に様々な鉢植えの花が咲き競っている。その中に探していたあの名知らずの花木を見つけた。ピンクの小さな星形の花の群れをたくさん付けている。
 早速、店の主人に聞いた。
「あの鉢の花は何ていうの?」
「あれですか。《金のなる木》です」
「えっ! ほんとにそんな名前の木があるんですか」
「はい、普通はそれで通っています」
「見事な花付きですね。うちではこんな風には咲きません」
「皆さん苦労されてるようですね。花付きを良くするコツがあるんです」と彼は自慢気に言う。「私は水やりを控え目にし、花芽が生育する八月、九月は一切水をやりません」
「そんなことをしたら枯れてしまうでしょう」
「秋口にはあの艶やかな葉が萎びてきますが、そこが我慢のしどころです」

 一般に生物は生育環境が良いと己の成長に勤しみ、花や実を付ける〈子孫繁栄モード〉にはならないという。私は面倒見が悪くてしょっちゅう草木を枯らすけれど、こんな苛めはしたことがない。今年の夏は心を鬼にして一つ断水を試みるか。
 ところで、この木の名の由来は、葉の上の新芽に五円玉を通して育てると、金のなる木のように見えるから、といわれる。ある業者が売らんがために考えたアイデアだそうだ。それが縁起物と称されて戦後の一時期に大いに売れたと聞く。この木を買った人のご利益はともかく、業者にとっては大当たりの《金のなる木》であった。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧