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「800字文学館」

「神の子」ガルシア

塚田 實

 今年のマスターズ・トーナメントでは、スペインのセルヒオ・ガルシアが優勝した。最終日(4月9日)の10番、11番で連続ボギーをたたき、首位と2打差ついたときには、解説者は「いつものガルシアに戻りましたね」と匙を投げかけていた。ところが15番ロングホールでイーグルを決め、息を吹き返した。この日はくしくも早逝したセベ・バレステロスの60回目の誕生日にあたり、先の解説者は「天国からセベが肩を押した」とコメント。ガルシアはプレーオフでローズを破り、74回目の挑戦でメジャー初優勝の栄冠を獲得した。最後まであきらめない37歳の闘う姿には精悍さも感じられた。勝利のパットを決めた後、ガルシアはグリーンに手を置き、神に感謝しているように見えた。

 2002年10月ロンドン郊外ウェントワース・ゴルフ・クラブで開催された世界マッチ・プレー選手権にスポンサーのシスコシステムズから招待され、準決勝を見た。ガルシアも勝ち上がっていた。当時まだ22歳と若く、活躍が期待されたガルシアには「エルニーニョ(幼子キリスト)」というニックネームが付いていた。
 ガルシアに付いてコースを回った。彼は愛嬌たっぷりに、明るさと躍動感を振りまきながらラウンドしていた。途中林に駆け込こんで用を足すお茶目な姿もあった。
 プレーを観戦した後、スポンサーのテントで食事会があり、余興の抽選会で幸運にも1等賞を引き当てた。賞品はガルシアのサイン入りドライバー。ヘッドの表と裏の溝部分にサインがある。スティールシャフトのドライバーは重たい。後で量ってみたら約400グラムもあり、とても振れない。

 昨年末家の片づけをしたとき、最近目立った活躍をしていないガルシアのドライバーを捨てようとしたが捨てきれず、車庫の奥にしまっていた。そこに今回のマスターズでの劇的な優勝。ドライバーは「人生いつまでも『ネバーギブアップ』で頑張ろう」との象徴だと思って大事に取っておくことにした。

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