作品の閲覧

「800字文学館」

パエリアを作った

志村 良知

 特に料理を趣味とせず、たまに何か作るか、という程度の男の料理は最終的に鍋一つになって且つ煮込むものがよい。使った調理器具や台所をなんとかする時間が生れ、現場の被害を最小に食い止められるからである。従って、カレー、シチュー、パスタソースなどが喜ばれる。
 先だって家人と話していたら「パエリアが食べたいね」「作ってみようか」「俺が作ろう」という流れになった。パエリアは上記定義にあてはまる。

 ネットでレシピを探し、材料が19種類、調理が29ステップというのに挑戦することにしたが、分量が4人前だ。迷っていたら家人が「余ったら何とでもなるから4人前作りなさいよ」と気前よく言う。
 前菜はハモン・イベリコに洋梨、ワインは発泡酒のカヴァと決まった。冷蔵庫と台所を探して、買ってくる材料をリストする。キーパーツのサフランは、生家の畑に咲く花から自家製したものが大量にある。パエリアの材料には他に高価なものは無いので、ハモン・イベリコとカヴァでパエリア全ての材料費を軽く超える。でも思い込んだら命懸け、高級食材スーパーにも寄る。

 大量在庫のあるサフランをバサバサ投入したスープを作り、材料を刻んだり、炒めたりの下ごしらえで一時間あまり、中間ではボウルや皿をかなりの数使う。
 いよいよ調理、パエリア鍋代わりの26センチのフライパンでニンニクを炒めるところに始まり、生米の投入、スープの投入、頃の良いところで下拵えしておいた具を見栄え良く並べる。具はトッピングでもあるため、以後の煮ると蒸らしでは蓋をして手出し無用となる。
 この間大量の洗い物と台所の整理整頓、前菜の準備、テーブルのセット。
 カヴァを抜いて乾杯、旨い生ハムを味わっているうちに完成。出来栄えは見た目、香りとも上々、味もいろいろな出汁を吸いこんでいて極上。
 マドリッドで行った夜九時にやっと開く「パエージャ」専門店の思い出話とともにカヴァのグラスも進み、4人前をほぼ喰い尽した。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧