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「800字文学館」

全国大会出場記

新田 由紀子

 麻雀教室の先生から声をかけられた。「全国大会に出てみませんか」。えっ、それはないでしょう。私かなりヘタだし、点数計算だってしどろもどろだし。
 「日本健康麻将協会」主催の全国大会には各教室から成績上位者が推薦される。ところが、今年は教室の上位数名が様々な理由で辞退した。で、ヘタの横好きに白羽の矢が立ったのだ。何事もチャレンジ、当たって砕けろと春の雨そぼ降るなか、品川は区民会館ホールへと出陣した。
 大会は今年で25回目を数え、厚生労働省後援・厚労大臣賞もとりつける盛会ぶり。全国から集まった120名の男女はほぼ同数。広いホールに30台もの電動卓がひしめく光景は壮観だ。
 受付で参加費4千円を払い、指定の卓につく。初対面の4人が緊張の面持ちで挨拶を交わす。ゲームは1回50分で相手を変えて4回戦を行う。点数は符計算を省いて上がった役の数で決め、サイコロも一切使わない。高齢者にも優しい簡便な「ウェルネス・マージャン」ルールだ。開会式のあと、12時半いよいよプレイ開始。
 耳元で心臓が鳴って頭がカッカとする。ポンだチーだと仕掛けられ、カシッと牌が鳴って猛スピードでゲームが進む。ロンだツモだと止めを刺されて、パタリと手牌が倒される。電動卓が牌を吸い込んでゴロロンと回ってはせり上がる。満貫点以上を出すとお菓子がもらえるのがご愛敬だ。この合間に一息をつく。負けに負けてぶつぶつ言い訳しきり、苦しまぎれの無駄口を飛ばしたり。その一方で、ジタバタするこの場を楽しんでいる。
 4時半過ぎ、終了の合図。やっと終わった。散々な結果だ。いや、いい経験だった。全国レベルのプレイを目の当たりにできたのだから。
 順位発表に移る。優勝者はなんと還暦を過ぎた女性だ。賞金や記念品を手にニッコリ。さらに、最高齢参加者で御年93歳の女性が表彰された。
 あれ、なんでこの人ここに来てるの、と言いたげな顔見知りの視線をかわして、快い達成感を胸に家路についた。

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