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「800字文学館」

『北越雪譜』の越後縮(ちぢみ)

大月 和彦

 『北越雪譜』には魚沼地方特産の越後縮について、材料、績み、縒り、織り作業、織り女たち、縮の市などの話が載っている。

 縮は苧(からむし)の繊維で織った上質の布の総称。糸に撚りを強くかけて、汗を凌ぐため皺を寄せて織ったので「しじみ」といい、つまって「ちぢみ」になった。冬の間、女の手仕事として作られる。
 女たちが縮つくりに励む様子がいきいきと描かれている。

 紵績(をうみ)― 手を拭い、座を清めて決まった場所に座り、姿勢を正し、呼吸にあわせて手を動かす。紵を績むには、普通は唾液を使うがここでは茶碗に入れた水を使う。
 縷綸(いとによる)― 毛よりも細い糸を扱うので天然の湿気が必要とされ火気のない部屋での仕事になる。
 織婦(はたおりをんな)― 機屋は神聖な場所とされ、掃き清め、新しい筵を敷き、四方にしめ縄を張り巡らし、織機を置く。女は衣服を改め、別火を食し、塩垢離をとり、盥漱(てあらいくちそそ)ぎ、身を清める。
 織りは気が遠くなるような根気のいる仕事だ。1端(反)の布を織るには2万5千回手を動かすことになる。賃銭目当てでできる仕事ではない。

 雪の中で、績み、縒り、織って越後縮をつくる仕事を「苦心労繁を思いはかるべし」と記している。

 女たちは、小さい頃から一本一本を正確に織りあげる縮の技を身に付け、競って腕をみがこうとした。いい腕を持つ娘は尊敬され、嫁入りの条件は容姿より縮の技が重く見られたという。

 縮に情熱をかけた女の話。
 初めて注文を受けて縮織りにいどんだ娘が、丹精をこめて織りあげた布を曝し業者に渡した。戻ってきた布を見るとコイン程の煤色のシミがあるではないか。驚き嘆き悲しみ、布を顔にあてて泣きくずれ、やがて発狂してしまう。
 娘の心情を思って悲嘆に暮れる両親、涙をぬぐう隣人たち。

 越後縮は「雪中に糸となし、雪中に織り、雪水を酒ぎ、雪上に曝す。雪ありて縮あり、されば越後縮は雪と人と気力相半して名産の名あり。魚沼郡の雪は縮の親というべし」。牧之のこの言葉に尽くされている。

(17・5・25)

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