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「800字文学館」

シルクロードの旅 ~トルファン・敦煌にて~

斉藤 征雄

 シルクロードは、紀元前二世紀頃(前漢)開かれた。以来、東西文物の交流は目覚ましく、中国からは絹、漆器などが運ばれ、西方からはイラン系の文物やヘレニズム文化が伝えられた。その影響は日本の文化にも及んでいる。
 同時にインドで生まれた仏教が、ガンダーラ式仏教彫刻とともにシルクロードに乗って中国へもたらされた。今回訪れたトルファンや敦煌はその中継地だったから、多くの仏教遺跡が残っている。

 トルファンはオアシスの街である。その地形はすり鉢状の盆地で、低いところは海抜がマイナスという。地表の降雨量は極めて少ないが、天山山脈の雪解け水が地下水となってこの街を潤している。伝統的なカレーズと呼ばれる井戸とそれらを結ぶ地下水路を構築して水を汲み上げ生活用水や灌漑用水にしている。
 ここに五~七世紀、高昌国という国が栄えた。その都城址の中に仏教寺院の遺構が残っていて、七世紀長安から仏典を求めてインドを旅行した玄奘三蔵が立ち寄り、般若経を講義したといわれている。
 ちなみに玄奘は、十七年間インド各地を回り馬二十二頭分の経典を集めて持ち帰った。それらの経典は長安の大雁塔に収められ、玄奘はそれを二十年かけて漢訳したといわれる。
 トルファンにはベゼクリク千仏洞もあるが、仏教石窟群としては敦煌の莫高窟が圧倒的に見ごたえがあった。
 このようにかつてのシルクロードの中継地には、その跡が様々な形で残っているのである。

 翻って現在、シルクロードには鉄道が走っている。ウルムチまでは高速鉄道で行けるし、直通貨物列車は欧州まで開通している。
 折りしも中国国営テレビが「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」に関する国際会議の特集を放映していた。一帯はいわゆる陸のシルクロード、一路は海のシルクロードを意味する。中国はこれらの関連地域に今後五年間で十七兆円の投資をして一大経済圏を作るという。

 シルクロードは、現在も生きているのだということを妙に生々しく実感した。

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