作品の閲覧

「800字文学館」

山菜採り(二) こごみ

藤原 道夫

 こごみはシダ類の一種で学名はクサソテツ。若芽が丸まって生えてくることから、「こごみ」あるいは「こごめ」と呼ばれるようになったといわれる。この植物は水辺の泥が溜まったような場所に好んで生え、しばしば群生する。一株から5,6本の芽が放射状に出る。若芽が緑色の葉に伸びてゆく姿に、成長するエネルギーを感じる。
 食用にする若芽には独特のぬめりとほろ苦さがあり、山菜としては美味しい方だ。天ぷらあるいはゆがいた後に胡麻和えや酢味噌和えにして、山村生活でよく食卓に上った。

 この山菜を予期しなかったカナダで発見した。その経緯を以下に。
 当時滞在していたトロント市はオンタリオ州に属す。州の花は白色のトリリアム、北海道で見られる同類のオオバナノエンレイソウに比して三弁の花(内花被)が断然大きい。トロントでこの花を基にした図柄入りの土産品をよく見かけた。
 北国の当地では、五月下旬に漸く花々が咲き出す。トリリアムは早春に咲く花、その群生地を探して郊外によく出掛けた。ある時花の咲き具合を探っていると、小川の近くにこごめによく似た植物が生えているのに気付いた。大振りの若芽を数本採り、家に持ち帰って恐る恐る試食してみた。それは紛れもなく昔食べたこごみの味がした。一日経っても腹の具合が悪くなる様子はない。そこで勇んで出掛け、沢山採集した。
 数か月後、家内が当地のスーパーでこごみらしい写真のある冷凍食品を見つけた。手に取って見るとFiddle Head Green と記されている。一箱求めて家で開けてみると、春に採ったものと同じだった。こごみがこんな名でカナダ(多分北米東部)でも食材として利用されていることを知り、この地に親しみを覚えた。
 こごみは近くのスーパーでも小さなパック入りで並んでいるのを見かける。巻いている芽が貧相で色もよくなく、買って食べる気が起こらない。私にとってこごみは、西会津の郷里の山かカナダで採れたものに限る。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧