温泉で若返ろう
大学で温泉の効用の研究をしている先生の話を聞いた。先生の悩みは頻繁なフィールドワークが必要であるのに、端からだと研究と遊びの区別がつかないため研究費の請求がし難く、物要りなことだそうである。
科学的な研究であるから、温泉の効用を表わす特性値を見出して定量化しなければならない。実際、女子学生も引き連れてのフィールドワークで、ただ「温まる」とか「お肌がすべすべ」とか言っていたのでは、落語『湯屋番』の若旦那の言う「外回り」と何ら変わるところは無い。
先生は若い人の肌は酸化還元電位が高いことから、その電位が高い温泉が肌を還元し若返りさせると考え、これを肌の若返り温泉の定量評価値とした。
ところが研究が進むと、温泉水は源泉で湧いた瞬間から空気中の酸素で酸化されて電位は下がり続け、どの温泉も数分から数十分でその値は水道水と変わらなくなってしまうということが分かってきた。温泉宿の浴槽内では塩素を全く投入しない源泉掛け流しといえども、酸化還元電位に注目する限り肌の若返り効果は無いという。
有馬温泉の金の湯の色は鉄分の酸化が完了したことを示す色で、電位は下げ止まり、肌を還元する効果が無くなったということだそうである。同様のことはミネラル・ウオーターにも言えて、瓶詰めされたものはただの水で、硬水ならミネラル類が摂れるかもしれないが、軟水なら水道水と何ら変わる所はない。
その中にも効果が持続する温泉があることはあり、その理由はまだ分からないが日本では野沢温泉だけが浴槽内で還元効果を残しているそうである。ただし、効果は数十分のことなので、温泉水を汲んで持ち帰って化粧水にしても無駄である。
温泉で若返るにはお湯の効用より、酒池とできたら肉林でどんちゃん騒ぎをするのが一番のようである。
しかし先生は湧きたての温泉水や湧水を求めて、今日も世界各地の温泉や有名水の源泉に出かけている。決して酒池肉林が目的ではないらしい。
外回り
銭湯業界用語=大八車を引いて、普請場などを回り薪を集める仕事。
若旦那の解釈=きれいどころを引き連れて、日本中の温泉を回り、どんちゃん騒ぎをする仕事。