沙吉比亜
表題を見て直ぐ解る人は現代では極めて少ないに違いない。英国の生んだ偉大な劇作家・詩人である。今では「沙翁」というのが漢字表記としては一般的である。
5月中旬から6月初旬まで娘一家の住むイギリスに出掛けた。現役時代に出張で何度か訪れた時には立ち寄る時間がなかった念願の沙翁の生地、ロンドンの北西150㌔にあるストラットフォード・アポン・エイボンへも足を延ばしてみる。
学生時代に受けた授業で楽しみながらも試験で大いに苦しめられたシェークスピア作品の一つ『ハムレット』の冒頭部分(さわり)の朗読も聞くことが出来た。英国人の俳優が観光客相手に16世紀のその地方の衣装らしきものを身に纏って身振り手振りで熱演するのだ。
この些か古過ぎる感のある漢字表記の名前「沙翁」に合わせて、有名な戯曲『ロミオとジュリエット』のタイトルを漢字で表すと、『春情浮世之夢―露妙(ロミュー)樹利(ジュリー)』となる。これは日本で初めてシェークスピアを原文から翻訳した明治期の英語学者で翻訳家の河島敬蔵による。
沙翁の誕生日は公式記録として残っている洗礼式の日付、1564年4月23日としている。当時の幼児生存率は低く、3人に1人しか成人にならなかった。シェークスピアの両親メアリーとジョンも、ウイリアムを授かる以前に2人の女児を失くしている。ウイリアム誕生の間もなく、この地方には鼠蹊腺ペストが大流行し、街の人口の15パーセントに当たる命が失われたのだ。
翁が亡くなったのは52歳の時。当時としては長命だろう。長生きと言えば、この著名な文豪は21世紀の現在も元気に生きて活躍している。ロンドン郊外の現地校に通う小学6年生の孫が学校から帰ってくると「ウイリアム・シェークスピア、ヒー・イズ・ア・ジーニアス」等と歌う。調べてみると“Shakespeare Rocks”という題名で子供向けのロック・ミュージックが幾つも作られていて、YouTube(Shakespeare Rocks-Wills Wonderful Words & Lyrics)で英国人小学生のコーラスを聞くことができるのだ。