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「800字文学館」

山菜採り(三) 山うど

藤原 道夫

 山菜について書きながら、少年時代に西会津の山村で体験した山菜採りの楽しさを思い出している。また「わらび」と「こごみ」はカナダという異郷の地で偶然見つけ、採集を楽しむと共にそれぞれの味を懐かしんだ。書き進めていくうちに、山菜採りを楽しみながらそれらを育む自然のエネルギーに対する畏怖ともいえる思いが、少年の心に深く刻まれていったことに気付いた。とりわけ強く印象に残っているのが山うどである。

 立派な山うどを採るのは大人の仕事だった。山に入る時の格好が違う。農作業服に地下足袋を履き、頭に編み笠、腰に鉈を括り付けて鎌を後ろに固定、あけび細工の篭を背負い、腰には「はけご」という長方形の篭を付ける。こうして道なき山奥へと入っていくようだった。主な目的は「ぜんまい」採り、その他の山菜も採ってきた。茎の太い立派な山うどを見せられ、大人への羨望の眼差しを向けたことが思い出される。

 そんな山うどは柔らかながら、味も香りも独特の強さがあった。葉のてんぷらに山うど独得の味があり、味噌汁の具は強烈な香りがした。あくが強いことは、鍋に粘着性のものがこびり付いていることで分かる。これは擦っても容易に落ちない。

 少年だった私は、採り易い所で細目の山うどを採ると共に、新芽を掘り出すことも試みた。山うどは大きく育ち、秋に枯れる。積もった雪が融けると、枯れた山うどが地面にへばりついている。その根元から出る新芽が少し伸びた頃合いを見計らって掘り出すと、柔らかであくの少ない上物が採れた。崖っぷちでそんなことをして、危ない目にも遭った。

 うどはスーパーでも売っている。茎が長くて白っぽいもの。これはトンネル内の陽の当たらない処で栽培されるとか。酢の物はシャキシャキとしてかすかにうどの香りがする。それはそれで美味しいが、山うどとは似ても似つかぬ代物だ。

 昔郷里で採ったあくの強い山うどは、人の手が掛かっていない山菜の最後の砦に思えてくる。

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