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「800字文学館」

我が家の古文書(三)

中村 晃也

(イ)昭和二十年八月に終戦を迎えるが食糧事情は益々逼迫し、戦災復興總本部発行の復興叢書「食べられる野生植物・簟菌類」という冊子が配られる。全二十ページの冊子で三百八十種の野草、茸、酵母菌が季節毎に紹介されている。

名 称 生育場所 可食部分 調理法
イヌフグリ 路傍・原野 若葉 茹でて和え物、浸物汁煮とす
アカザ
マツムシサウ
ハコベ

(ロ)昭和二十一年発行の「家庭用米穀通帳」に指定職業を職種証明書に記載するようにとの指示がある。

一、農夫、漁夫、炭焼夫、伐木夫、造材夫。
二、坑内炭鉱夫、抗内採炭夫、坑内支柱夫、坑内掘進夫、坑内充填夫、坑内運搬夫、露天採掘夫、
  選鉱夫、土砂採取夫、汲油工、天然瓦斯採取夫
三、焙焼工、焼結工、製銑工、製鉱工、製鋼工、製錬工、造塊工、圧延工、伸張工、鍛冶工、
  鍛工、ガラス吹工、製缶工、鋲打工。
四、製材工、木挽職、大工(船、船台、車)、左官。
五、石工、土工、道路工夫、線路工夫、瓦斯水道工、電気工夫。
六、船夫、潜水夫、仲士、人力車夫、馬方、荷車挽、荷扱夫、郵便集配人、火夫、機関助手、
  操車手、連結手。

 日本の復興のために必要な技能工には米の配給量を二百瓦割り増しにする配慮がなされたものと思われる。現在では消滅した職業や差別用語として使用できない名称が並んでいる。

(ハ)昭和二十三年の「家庭用品購入通帳」には次の記載がある。
「連合軍の好意である大切な砂糖はなるべくお食後として利用しましょう。三杯のご飯を二杯にしても砂糖いりのお菓子か甘い飲み物を食後にとれば必要なカロリーを糖分で補うことができ、満腹感も得られます。疲労も消え質的な味覚も満たされ主食の補としても立派に役立ちます。」

 一方、東京都は主食の米として配給したキューバ産の黄褐色のザラメを何とかして消費して貰おうと腐心したようだ。通帳の裏表紙にホットケーキ、どらやき、ドーナッツ、ビスケット、カリントウ、ゼリーなど砂糖を使った食品の作り方が並んでいる。ふくらし粉を用いたカルメ焼きが流行したのもこの頃だ。

(続く)

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