作品の閲覧

「800字文学館」

「平成二十九年、宝塚記念の馬券」

大越 浩平

 競馬界上半期の締めくくりは、出走馬をファンが決める「宝塚記念」だ。今年は、北島三郎氏所有の、昨年の年度代表馬「キタサンブラック」がファン投票第一位。菊花賞、天皇賞、ジャパンカップを征し、実力馬であることは衆目の認めるところだ。今回勝利し仏・凱旋門賞出走の夢もふくらむ。

 キタサンが断トツ一番人気で、単勝は100円チョイだろう。キタサン外しの馬券がおいしそうだ。外しを考えるのが予想の醍醐味。一本被りは来ないことがよくある。梅雨時だ、やや重か重馬場、力のいる馬場になることは必定。540キロ前後の大型馬だ、重賞レースを使い続けた疲労が心配。

 出走馬が発表された。11頭の少数で、キタサンは8枠10番。キタサンの展開を考える。早めに4,5番手につけたいが、10番枠だ。天皇賞の先行逃げ切りの強さを見ている他馬は、そうはさせない。

 最も展開に恵まれた重賞レースの常連、実力馬がいた。大外枠を引いた11番のサトノクラウンだ。キタサンを見ながら走れる、大外なので競りかける馬がいない、やや重、重馬場は上手、大外の距離不利は少ない。そして騎手がM・デムーロ。負ける気がしなくなってきた。

 単複の馬券購入、スクリーンで見学。ゲートが開く、想定した展開。向こう流しでひと息入れ、足を貯めたいキタサンを、デムーロが絶妙のタイミングで突っついた。ここで勝負はつく、キタサンのロングスパートは消えた。デムーロは先行馬を視野に入れ追い出して完勝。キタサンは9着に沈む。配当に満足して換金。

 読んだ展開の的中した快感と充実感。勝利記念CDでも買おうかと、タワーレコードに飛び込む。気になっていた山中千尋(p)の『モンク スタデイズ』と、矢野顕子(Vo)と上原ひとみ(p)の『ラーメンな女たち』を購入。

 家人にうるさいと言われながら、昔クラウンレコードがあったな、などと見当はずれなことを思いつつ音圧を下げて聴く。缶ビール6本で沈む。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧