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「800字文学館」

下総散歩 その1

新田 由紀子

 暖かくなってくると、光と風に誘われてどこかに出掛けたくなる。
 近郊で手軽なところはと地図を見ると、房総の北の方の台地が目に付いた。真ん中あたりが成田だ。行ってみたい博物館のある佐倉も近い。そこで、成田山と佐倉を結ぶ散策を思い立った。
 お天気もまずまずの当日、京成線で成田駅へ。向かいのJR駅前で街路図を確かめ、表参道よりも脇道を選んで歩きだす。くねくねとして古い道のようだ。石碑や石仏、祠の立つ一角がある。鉄道が来る前、あたりは小高い山林だったとか。スナック、食堂、床屋など、小さな商店が参詣の宿泊客で賑わう時期もあるのだろう、曲がりくねった道沿いに連なっている。
 表参道に出ると、土産物屋と飲食店が賑やかだ。鰻を焼く煙も鼻をくすぐる。ゆるやかな坂を下って成田山新勝寺の門をくぐる。石段をどんどん登って朱塗りも鮮やかな平和大塔まで。中には寺宝が収められているそうだが、そのまま石段を下って戻ると、門前の鰻屋に呼び込まれた。うな重を横目に小ぶりの丼で間に合わせる。
 京成線で佐倉までの数駅を戻り、お目当ての「国立歴史民俗博物館」へ。駅から15分ほどの佐倉城址公園の小高い森の上だ。壮大な建物の中には古代から現代までがこれでもかと展示されている。豊富な文献・資料、復元模型、ジオラマやタッチパネル展示など、1日あっても回り切れないほどだ。足が棒になる前に退出して、緑溢れる城跡公園の中を歩く。
 佐倉城は江戸防衛の要として築かれ、明治以降は陸軍の駐屯地だったとか。城跡だけでなく、兵営の遺構も見られて興味深い。城門跡を出て、武家屋敷通りへ往時のままという竹藪の坂道をたどる。土塁と生垣をめぐらせた三軒の武家屋敷はそれぞれ禄高が違うそうだが、簡素な家屋に菜園を備えた質実な暮らしぶりが偲ばれた。
 高台を下ると、川向うにJR佐倉駅が見える。都心までは小一時間だ。思いがけない近場で旅気分を満喫できた一日だった。

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