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「800字文学館」

竿燈まつり

内藤 真理子

 青森に旅行するつもりで予約した旅館から、前日に確認の電話があった。
「秋田の竿燈まつりを見てから来られますか」
「え、竿燈まつりがあるのですか」
「はい最終日なので、ご覧になるのなら遅くなっても玄関は開けておきますよ」
 嘘みたいな幸運だった。

 未明に車で東京を出て、秋田に着いたのはお昼過ぎ。街はまさにお祭り騒ぎ、中高年の町民は見学席券を売り、秋田名産の試食品を配り、ギャル達は
「竿燈をプリントしたTシャツ、タオルはいりませんか」と声を張り上げる。
 町のそこかしこで「ババアイスどがね」と老婆がビーチパラソルの下で揃いの黄色いネッカチーフを被って皺くちゃの笑顔を振りまき、屋台がお祭りムードを盛り上げる。
 夜七時、道路脇の見学席に鎮座している私達の前を、太鼓を打ちながら山車がいく。その後を、子供たち、青少年、大人と三つ竿燈を横倒しに持った一団が行く。それが町ごとに何組も続く。企業や商店のも交えて、秋田県の若者全員が集結したような大行列。紺色厚手の揃いの法被と白い半腿ひきを身にまとい、見学客に手を振り、手のひらタッチをしながら次々に行き過ぎる。太鼓の地響きや笛の音、若者の熱気がそこいら中に充満し、まさに老若男女、町を挙げてのお祭りなのだ。
 いよいよあたりは暗くなり、合図とともに明かりの入った竿燈が一斉に立ち上がる。縦九段の竹竿に提灯が鈴なりに下がり、それが限りなく林立し、あたりを埋め尽くす。一本を一人が片手で持ちバランスをとりながら、おでこ、肩、腰と順に乗せ、手を離した両手で扇を操る。風に任せて竿燈は揺れ、使い手は前に走り横に除けと真剣そのもの。倒れそうになったり、ぶつかりそうになるたびに観客は「ワーッ」と叫び、更に竿を足して一段と高くした竿燈に拍手がはじける。若者は変わりばんこに、竿を横から自分の手に移して夜空に踊らせる。
 初めて見た東北のお祭りがこんなに迫力があるとは……。ねぶたも見たい、七夕も、でも運が良くなきゃ。

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