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「800字文学館」

年寄りはつらいよ

首藤 静夫

 9月初め、日本年金機構から書類が届いた。「個人番号申出書」及び「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」の案内だ。
 後者は毎年くるが前者は初めてだ。いわゆるマイナンバーを申し出よとの沙汰だ。書類に記入もれがあったり提出しなかったら扶養控除を受けられませんよ、所得税などが多く取られることがありますよ、との警告つきだ、不愉快である。しかし、やむをえないかと記入に取りかかった。
 先ずは簡単なマイナンバーからとカードを探す。見つからない。役に立たないから適当に放置してあるのだ。やっと見つけて数字を入れようとしてふと迷う。待てよ、書類には12桁の空欄がある。カードには4桁の数字が3列ある。これを左から順に写せばいいんだなと思っても一抹の不安がある。カードの通りに枠取りしてくれたらよっぽど安心なのに――。
 記入の手引きがついている。詳細をきわめ、A4版で8ページ分だ。これをよく読んで期限までに出せとある。よく読んで・・・・・すっきり分る人が何割いるだろうか。長年法律用語や事務用語に接してきた私も多少戸惑う。例えば「年間所得の計算方法」とあって、収入額と所得額は違いますよと、その違いや所得額の計算方法が細かく示されている。高齢者にこれを見て計算しろと言っている。
 先日、近くのお年寄りが頼ってきた。郵便局の不在通知表が入っていたので音声案内に従って電話をするが繋がらないと。妻がやり方を教えてあげたが数日してまた同じことで見えた。不在通知表が使えないお年寄りに8ページもの手引きを理解せよという。不明な点はホームページまたは年金ダイヤルへとあるが、これが利用できる位なら――。
 結局出さない(出せない)か適当に書いて出す人が多いだろう。年金機構は不十分な書類を受け取って、あるいは返事がこなくてどうするのだろう。申請しない方が悪い、間違った申請が悪いで済ますのだろうか。元来、こういう人たちのための控除制度と思うのだが。

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