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「800字文学館」

『風に舞ったオナリ』を読んで

池田 隆

 田中水絵著『風に舞ったオナリ』は時代の波に翻弄された沖縄の或る家族の歴史を語る。著者が旅先で偶々知り合った沖縄出身の老婦人「美恵子」より聞き書きしている。オナリとは琉球語で姉妹を意味し、美恵子の母「鶴」とその姉妹たちの波乱に満ちた人生を綴っていく。
 姉妹は日清戦争後に旧琉球士族の家で生まれる。彼女らには自慢の兄がいた。苦学の末、本土へ留学し、沖縄出身初の外交官となる。松岡洋右にも見込まれるが、日中戦争の初期に起きた通州事件で殉職する。
 鶴は医師の夫を病で早く亡くし、兄の勧めで子や妹を連れて中国に移るが、上海事件に遭い、満州で洋服店を始める。敗戦後は本土へ引揚げ、担ぎ屋となり家族を養う。しかし故郷への思いから米軍占領下の沖縄へ帰郷する。基地の近くで洋装店、喫茶店、アパート業、自動車修理工場と事業を拡大し、最後には立派なホテルの経営者となる。最大の趣味がギャンブルという女豪傑であった。
 鶴の姉はハワイ移民の日系一世と結婚する。農場経営を始めるが、第一次大戦後の不況で行き詰まり、過酷な契約労働者に陥る。排日運動が高まる米社会で子供の教育を怠らず生活を立直していくが、突然の真珠湾攻撃により心は二つの祖国の間で揺れ動く。
 鶴の妹は上海や満州国境で教師として働くが、結核を患い老母や姪の美恵子たちを陰から支えていく。米軍の沖縄上陸時も事前に彼女らを連れ沖縄から台湾に疎開し、難を免れさせた。
 ただ女子師範学校生だった美恵子の妹は教師の諌めで一緒の疎開船に乗らず、ひめゆり学徒隊に入る。戦場では九死に一生を得るが、強烈なトラウマを抱え込む。その他多くの親族について各々の人生が語られている。
 著者は沖縄を主体とした近現代史をその場に生きた人たちの視点から捉えようと、徹底した聞き取り調査と時代考証を行っている。家族親族の絆の大切さ、国や軍の頼りなさ、沖縄と本土の意識の相違についても読者に考えさせる好著である。

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