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「800字文学館」

台風の名前

野瀬 隆平

 今年も大きな台風に襲われた。日本だけではないアメリカも。ハリケーン「ハービー」に続いて「イルマ」、その後も続々と来襲して最近では「マリア」が大きな被害をもたらした。ハリケーンには人の名前が付けられる。毎年、Aで始まる人の名前からB、C、D……と進んでゆく。
 日本では発生した順に「号」を付けて呼んでいるが、西洋の女性の名前を付けていた時代があった。今から丁度70年前の昭和22年9月。関東地方を襲った台風は、千人以上の死者を出す大災害をもたらした。日本流にいうと台風9号であるが、占領軍であるアメリカの気象隊は「キャスリーン台風」と名付けた。同じ台風が違う名前で呼ばれるのは不都合であるとし、日本側もアメリカの呼び名に合わせて「キャスリーン」としたのである。この方式は昭和28年に日本が「号」に戻すまで6年間続いた。
 ところで、アメリカではハリケーンに女性の名前だけを付けていたが、1970年代のウーマンリブ運動により、女性名だけとするのはけしからぬという議論になり、1979年以降は女性と男性の名前を交互に付けることになった。例えば、「ハービー」という男の次は「イルマ」という女の名前のように。
 ちなみに、この呼び名は原則として6年周期で同じ名前にすることになっており、予め先の先まで決まっている。但し、その名のハリケーンが大きな被害をもたらした場合は、後になって混同が生じないように、その名は使わず別の名前が付けられる。今年の「イルマ」も実は本来は6年前と同じ「アイリン」となる筈だったのが、2011年の「アイリン」が記録的なものだったので、あえて違う名前としたのである。
 なお、日本では台風を通常「号」で呼ぶが、大災害をもたらした大きな台風には通称名が付けられる。昭和29年の台風15号には沈没した船の名を付けて「洞爺丸台風」、5千人もの犠牲者を出した昭和34年の台風15号には襲った地域の名を付けて「伊勢湾台風」と呼ばれている。

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