作品の閲覧

「800字文学館」

駒澤大学日曜講座

塚田 實

 駒澤大学は曹洞宗の大学なので、キャンパスに150人が坐れる立派な坐禅堂がある。午前9時から約1時間坐る。坐禅には、入堂から坐禅に入るまで細かい作法が決められている。最初は戸惑ったことも多かったが、もう何年も通っているので、作法に迷うことはない。坐る位置も自然と定まってきた。堂内で参禅者と話すことはないが、いつも来る人がいないと心配になる。
 坐禅開始前に堂頭(禅院の指導者)が堂内を巡る。凛とした静寂に包まれ、三つの鐘で坐禅が始まる。曹洞宗は壁に向かって坐る。結跏趺坐(けっかふざ)は難しいので半跏趺坐(はんかふざ)で坐り、法界定印(ほっかいじょういん)を結ぶ。目は開けているので、暫く板壁の木目と対面することになる。坐っていると木目が色んなものに見え、なかなか瞑想に入れない。それでも呼吸を整えると、やがて瞑想に入る。
 警策(きょうさく)をうけたいときは、合掌して堂頭が接近するのを待つ。ところがこれが難しい。堂頭は極力音を立てずに堂内を回っているので、壁に向かって坐っている者からは、堂頭の位置がよく分からない。結局瞑想から離れ、頭を動かさずに視野を最大に広げて、影や気を伺うことになる。堂頭は、警策を受ける者を瞬時に判断し、ビシッと厳しく打つ時と優しく打つ時がある。これにはいつも感心している。

 坐禅が終わると約1時間の講義だ。インド哲学から『正法眼蔵』、仏教美術史、西域の旅など講義は幅広い分野にわたる。受講者は高齢者が多く、先生は
「学生たちよりも熱心なので、やりがいがある」
 と冗談めかして持ち上げる。

 駒澤大学の図書館もよく利用する。構内を歩いていると仏教学部で学ぶ萩本欽一さんと出会った。若い学生に囲まれて楽しそうだ。
「欽ちゃん!」
 と声をかけると、立ち止まって気さくに話をしてくれて、
「お互い頑張ろうね」
 と励ましてくれた。どうやらフルの学生と間違えたようだ。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧