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「800字文学館」

日本は比較的安全?

野瀬 隆平

 日本の経済は円・ドルの為替レートに大きな影響を受けるので、日々の変動には強い関心がある。
 円高に振れたときの理由として挙げられる一つに、「比較的安全な資産である円が買われた」というのがある。地政学的な危機が起きて円高になったときにいわれる決まり文句だ。かつては「有事のドル」といって、何か危機的な事態が発生した場合には、ドルが買われて円安になったのに、いつのまにか逆になっている。2001年のアメリカでの同時多発テロ以降のようである。

 投資家は平常時には、積極的にリスクを取って資産を運用するが、例えば朝鮮がミサイルを発射したとか核実験を行ったというような危機が高まった局面では、リスクを回避する行動に走る。
 安定時には、金利の安い円を借りて、より金利の高いドルを買い、利ザヤを稼いでいるが、有事には外貨を引き揚げて円を返す。その為に円を買うので円高となるという理屈だ。
 有事に円が買われる要因はほかにもある。日本が長期的にデフレの状況にあり、円を保有していれば資産価値が目減りしない、むしろ上がるという安心感。日本は世界一多い対外資産を持っているが、有事にはその資産を引き揚げて円貨で保有しようとするなど。
 以上からも分かるように、危機の有無で相場が変動するのは、日本が慢性的にデフレであり、金利が安いという前提があるからである。
 海外ではなく国内で災害が起きた時にも円は強くなる。一見逆のようだが、東日本大震災のときには円高に振れた。復興のために円の資金需要が高まると予想されたからである。アメリカがハリケーンに襲われ大きな被害が出たときにも、ドルが高くなった。

 さて、あまり考えたくないが、朝鮮半島をめぐり重大な事態が発生して日本が大きな被害をこうむるような状況に追い込まれたとき、果たして為替レートはどう動くのだろうか。そのような危機的な事態においても、「比較的安全な資産……」などといって円が買われるのだろうか。

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