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「800字文学館」

アナフィラキシーショック―スズメバチにヒアリ

藤原 道夫

 スズメバチは初秋に攻撃的に活動する。「ハイキング中の小学生がスズメバチの群れに襲われて数人が刺され、一人がショックで死亡した」といった記事を見掛けるのもこの時季だ。
 最近新な脅威が加わる可能性が出てきた。ヒアリである。この蟻に咬まれると局所が赤く腫れ、長時間続く激しい痛みに襲われる。時期をおいて再度咬まれると、蜂の場合と同様にショックで死亡することもある。貨物と共に海外から運ばれてきたが、幸い定着していない。
 これら昆虫の刺咬によってよって惹き起こされるショックの仕組みは、凡そ解明されている。昆虫は刺咬する時に様々な化学物質やタンパク質毒素を体内(皮内~皮下)に注入する。それらが痛みや腫れを起こす。毒素に対して体は免疫系を働かせて抗体を作り、無毒化しようとする。抗体として通常はIgGができる。ところがアナフィラキシーを起こす人ではIgEと呼ばれる抗体ができる。しばらく経って再度毒素が入ってくると、速やかに多くのIgE抗体が産生される。それらが毒素と結合すると一連の反応が起こり、最終的に特定の細胞から多量のヒスタミン等の化学物質が血中や粘膜・皮膚内に放出される。その結果小血管が拡張して急に血圧が低下し、また気管支が収縮して呼吸困難に陥る。皮膚や粘膜に出血がみられることもある。この状態がアナフィラキシーショックである。IgG抗体はショックを起こさない。
 抗体産生に関わる遺伝子の働きをみると、アナフィラキシーショックを起こす可能性のある人では、IgG抗体を産生する遺伝子座が選ばれずにIgE抗体を産生する遺伝子座が活性化される。どのようにしてこのように選択されるのか、そこが分かっていない。根本的なところでIgE抗体の産生がコントロールされない限り、アナフィラキシーショックの予防はできない。治療法は放出されてしまったヒスタミンなどの化学物質の作用を抑える対症療法に終始せざるを得ない。
 IgE産生は花粉症や卵などの食物アレルギーにも当てはまる。

※アナフィラキシー=反する+防御=防御する働きが逆に体に害を及ぼすこと

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