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「800字文学館」

東大が法政に勝った日

首藤 静夫

 たけなわの東京六大学野球である。東大が法政に初戦で勝つものだから、翌日、何はともあれ神宮に駆けつけた。こういう場合、第2戦では大敗し、第3戦も落として、あぁ!となる。過度な期待はすまい。
 久しぶりの神宮球場だ。学生席では応援が始まっている。カラフルで賑やかだ。東大もチアガールが20名はいる。僕らのころは付属看護学校の学生が主力だったが――。
 グランドではスクールカラーをあしらったユニフォーム姿の選手たちが交代で練習中だ。分刻みのシートノックがきびきびと澱みない。秋天の下、応援合戦も次第に熱を帯び、気持ちの良い試合前風景だ。

 昭和40年代~50年代の法政の強かったこと。田淵幸一、山本浩二らにエースの山中正竹で連覇、その後も覇者として君臨し更に江川卓の時代へと続く。
 江川は東大戦ではストレートばかりを早いテンポで投げ込み、内野ゴロでチェンジと見るやさっさとベンチに引き揚げた。あの態度の憎らしかったこと、守備陣も鉄壁だったのだ。逆に東大の惨めな守備、セカンドがトンネルして応援席で天を仰いでいると再び歓声、見るとセンターも後逸していたのだ。
 対法政戦はこういう経験ばかりだから勝てる訳はないと思っていた。ところが奇跡が起きた。この第2戦も勝って実に15年ぶりの勝ち点1をあげたのだ、しかも一番面白いとされる8対7の1点差で。
 8対3の大量リードがジリジリと追い上げられ、法政の9回表の攻撃では2死2塁3塁の1点差、エラーでも同点か逆転の場面だ。最後のライナー性の大きな当たりが左中間に飛んだときは球場内に悲鳴と歓声がどよめいた。レフトが好捕してゲームセット。学生席はもちろんのこと、内野席のOBも知らぬ者同士が肩を叩きあった。
 法政はこの5年間優勝から遠ざかり、5位に甘んずることが多くなっている。つらい時期であろう。が、東大の連敗記録94からすると、まだまだこんなもので落ち込んではいけない。フレー、フレー、法政!

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